研究概要 |
病気の患者や工業プラントなどが危機的状況に陥る前に,これらに取り付けたセンサのデータからその予兆をとらえて,対象の延命を図る問題が異常の予兆検出である.この予兆検出は,センサデータの回帰を行い,それによって推定される値と実測値の乖離を計る問題として扱うことができる.本研究では,非線形回帰の一手法であるGaussian Process Regression:GPRを用いるが,大量の事例データを参照するため,メモリ使用量と計算負荷が高いことと,複数センサの値を同時に検査するためのマルチセンサ出力の推定が行えないことが問題である.これに対して,GPRの計算に用いる事例集合(Active Set)を入力に応じて動的に限定するDynamic Active Setにより,精度を維持しつつ高速化できるという事実に基づき,その理論的基盤を構築し,多種の問題でその有効性を確認することが本研究の目的である. 平成24年度の研究成果は以下の通りである. 1)人工的に発生させたランダム波形を用いた実験の結果,全事例データを使う場合よりも約65倍の高速化が実現できることを実証した. 2)実際のプラントデータに上記手法を用いたGPRを適用し,回帰により得られたセンサの推定値と実測値との乖離を求め,それを推定された偏差で除することによって,「異常度」を定義した.この異常度による予兆検出は,米国Smart Signal社のS.Wegerichが特許を保有するSimilarity Based Modeling(SBM)よりも高感度かつ安定であることを実験により確認した. 3)この異常度を様々な時間解像度で求めるSpectro Anomaly Gram:SAGを提案し,瞬時的な異常と大域趨勢の異常の両方が検出できることを確認した. 4)ベクトル値の出力予測とその共分散行列推定法を提案し,実験を通じてその有効性を確認した. 5)この他に,回帰計算の次元圧縮法,回帰に用いるサンプル抽出法についても検討した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は,マルチ出力予測は着手しない予定であったが,Dynamic ActiveSetを利用して,マルチ出力時の共分散行列が推定できる,という着想を得,実装と実験を行った.実験を通じて,特殊なケースでは正しく共分散行列が推定できない場合もあり,アルゴリズムの改善が必要であることも分かった.この点は計画以上の進展であるが,査読のトラブルで論文誌に投稿中の論文の採録が決まっていない点を勘案し,上記の評価とした.
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