研究実績の概要 |
患者や工業プラントなどが危機的状況に陥る前に,これらに取り付けたセンサデータからその予兆を検出し,対象の延命を図る問題が異常の予兆検出である.この予兆検出は,センサデータの回帰を行い,それによって推定される値と実測値の乖離を計る問題として扱うことができる.本研究では,非線形回帰の一手法であるGaussian Process Regression:GPRの計算負荷を軽減するために, 計算に用いる事例集合(Active Set)を入力に応じて動的に限定するDynamic Active Set:DASを提案した.DASの理論的基盤構築と拡張,多種の問題でこの手法の有効性を確認することが本研究の目的である.
25年度までの研究成果は以下の通りである.1)人工データを用いた回帰計算では,精度を維持したまま,全データを事例として使う場合よりも約65倍の高速化が実現できた.2)GPRにより得られた推定値と実測値との差をGPRで推定された偏差で割った「異常度」を定義した.この異常度による予兆検出は,米国Smart Signal社が特許を持つSBMよりも高感度かつ安定であることを実験により確認した.3 ) この異常度を様々な時間解像度で求めるSAGを提案した.4)ベクトル値の出力予測とその共分散行列推定法の提案と,異常度の定義の拡張を行った.
26年度は,上記4)の計算において推定された共分散行列の固有値が負になることがあり,非負拘束を与えて,各事例に対する重みを再計算する方式を数種類考案した.これらを異常検出問題に適用した結果,そのうちの一つを用いて計算した異常度が,異常部で高い値を持ちながら,非異常部では低い値を持つ事を確認した.この異常度を,工業プラントの異常検出,心電図の期外収縮の検出問題に適用した結果,極めて安定かつ高感度な検出が行えることを確認した.
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