研究最終年度にあたる今年度は、昨年までの研究成果を踏まえ、主に前脳基底部の損傷によって記憶障害を呈する患者群を対象に、記憶障害とMRI画像を用いた病巣との関連性の解析を行った。 具体的には、前交通動脈瘤手術後の患者群をに神経心理学的検査を行い、亜急性期において全般性知能に比較し、記憶が明瞭・顕著に障害されている健忘患者6名を対象とした。また、長期的な社会的転帰に関しても、患者の復職状況により評価された。6名の前交通動脈瘤術後健忘患者のうち、4名が独力で仕事を継続できていた一方、残り2名は不可能となっていた。この転帰不良であった患者2名においては、処理速度および遂行機能の評価成績が不良であった。記憶評価の成績は、全ての患者において、亜急性期に比べ慢性期にはある程度改善していたが、その改善の度合い、あるいは残存している障害の程度は、長期的な社会的転帰を説明し得るものではなかった。MRIによる病巣評価では、6名全ての患者において、両側の脳弓柱病変が認められた。一方、転帰不良であった患者2名のみが線条体病変を有しており、転帰良好であったその他の4名ではこの病変は認められなかった。 これらの結果から、脳弓柱の病変が長期に持続する健忘の責任病巣であることが示唆されたが、これは長期的な転帰不良を直接的に説明するものではなかった。その一方、線条体の病変は処理速度低下および遂行機能障害の責任病巣であり、これにより長期的な転帰不良がもたらされたと考えられた。
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