研究課題
本研究は発達初期の言語、社会認知機能を支える脳機能・脳部位結合の発達過程とその障害例を明らかにすることを目的とした乳幼児縦断研究である。本研究では30週齢から12ヶ月齢までの(新生児期、3,6,12ヶ月時点)正期産児、早産児、発達障害リスク児を含む乳児の安静時および言語、社会刺激処理における脳活動、脳部位間の機能的結合性、その発達変化をNIRS(近赤外分光法)計測にて明らかにする。それら脳活動パターン、脳部位結合パターンとその後(1-2歳)の乳児の言語獲得・社会的行動発達との関係を検討することによって脳機能回路発達の定型、社会性障害などの非定型例を類型しコミュニケーション脳の発達を解明する。2年目である今年度は、慶應義塾大学病院で生まれた約35名の新生児(正期産児、早産児を含む)について、1、大脳半球の機能的側性化を検討する合成音声による聴覚刺激、2、乳児の母親声・非母親声による乳児向け音声刺激、3、音声の系列学習刺激に対する脳反応をNIRS計測した。計測した乳児に対してはほぼ全員に40週齢、44週齢時に同様の実験を行った。その後の3,6,12ヶ月,1歳半時点のフォローアップ研究への参加希望者のみが脳機能実験、行動実験に参加した。今年度はフォローアップ希望者が少なかったが、本実験開始以前より収集していた縦断データを併せ暫定的な解析を行うことができた。その結果、新生児時期の音韻対立に対する(上記1刺激)脳反応が、9ヶ月、12ヶ月の言語発達指標と正の相関を示すことが明らかになった。このことは音韻に対する新生児期の脳の感受性が、後々の言語発達を予期することを示唆するものである。
2: おおむね順調に進展している
今年度の縦断フォローアップ参加者は少なかったが一昨年度より縦断研究を進めていたこともあり、0-2歳児のデータは着実に収集されている。縦断データも行動データ、脳機能データと大量であるが、各々データ入力とデータ整理はされており、今年度いつでも多変量解析による検討が行える状況である。
最終年度にあたる今年度は縦断データを着実に取得するとともに、大規模データを総合的に解析し、結果をまとめていく予定である。脳機能データについては脳活動の強さ、コネクティビティを解析するが、種々の新しい解析法があるため先行研究を吟味し、最適な手法をとりいれていく。縦断フォローアップ研究参加者を増やすために、リクルート方法を工夫する。縦断研究のドロップアウトをできるだけ減らすと共にドロップアウトした参加者についても1歳半や2歳時点での質問紙調査は行えるようにし、万が一当初の目的とする縦断研究が成立しなかった事態に備える。
最終年度時のデータ解析に当初の予想以上に時間がかかることが見込まれてきたため、人件費として計上する部分を繰り越した。また、縦断実験の参加者が少なかった分、来年多くの縦断研究参加者を追加する必要ができたため。縦断研究の参加者数を追加するため、一部の人件費を今年度の参加者謝金として使用する。さらに縦断データの解析のための人件費としても考慮した。
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