本研究課題の目的は、システム数理科学駆動型トランスオミックスデータ解析を確立することで初めて漢方薬効を細胞内分子レベルで明らかにすることにある。漢方薬は、複数の生薬を用い、細胞内分子システムのさまざまな部分に作用することで、システムの状態を統御し薬効を示していると考えられるため、遺伝子毎に漢方薬の影響を調べたのでは、真の漢方薬効のシステムには到達できない。そこで、漢方薬効のシステム解析に最適化したオミックスデータを構築し、システム数理科学的データ解析を行うことでその全容を明らかにする。
7週齢のマウス(C57BL/6)に対して水(コントロール)または補中益気湯(1g/kg/day)を2週間に渡って投与した後、インフルエンザウイルスに感染させ、6時間後、および24時間後に肺、脾臓を抽出し発現アレイを用いたトランスクリプトーム解析を行った。発現アレイによるRNA定量のバラツキをおさえるため、各時点において n=4 で解析を行った。肺、および脾臓において、6つの比較解析をそれぞれ行った。例えば、肺、脾臓それぞれにおいて、6時間後、24時間後における水投与群と補中益気湯投与群の比較である。遺伝子単位の発現差解析に加え遺伝子セットを元にしたパスウェイの解析を行い、どのようなシステムが補中益気湯により活性化され、もしくは抑制されてインフルエンザウイルスに対して抵抗性を示しているのかを解析し、その成果を現在論文としてまとめ投稿準備中である。また、人参養栄湯の認知症に対する効果を分子レベル、特に生薬の陳皮の影響を調べるため、対コントロール比較(6時間後、24時間後)を行い、発現アレイによるトランスクリプトーム解析を行った。現在、補中益気湯と同様の解析を行い、結果を取りまとめており、まとまり次第、論文として投稿する。
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