研究概要 |
生体運動制御の特徴は,その精緻性とロバスト性にあり,さらに生涯に亘りこれらを維持するための適応性にあると考えられる.ロボット等の機械運動制御系では,高い精緻性を有するものの,未だ実用上十分なロバスト性や適応性は実現されていない.すなわち,現在の実機制御技術では,機械系の経時・経年変化や故障に対し,制御信号を適応的に変化させ機能を最適に維持し続けることは困難である.こうした背景から本研究では,生体特有の適応運動制御機構を工学的に実現することを目指し,生体運動制御の脳内メカニズムを探り,得られた知見をロボットや医療機器等の実機制御に応用することを目的とする.これにより,小脳を中核とする運動の制御と学習に関する神経科学的理解が進むと同時に,生物と同等の運動学習機能を有する新たなモータ制御やロボット制御技術の開発に繋がるものと期待できる. 上記目的を達成するために,平成24年度は,前庭動眼反射(Vbstibuloocular reflex:VOR)ならびに眼球運動積分器(Oculomotor neural integrator:ONI)運動学習時の小脳と脳幹pre-motor細胞の活動を神経生理学的手法により計測し,学習に伴う信号伝達変化,特に小脳一脳幹ループ内の活動変化を明らかにすることを目指した.その結果,VOR運動学習中の小脳Purkinje細胞活動の連続記録に成功し,VORゲイン増加学習とゲイン減少学習における小脳の異なる役割が示唆された.ONI運動学習については,左右眼のONIの独立性と従属性の存在を明らかにし,後脳Area I細胞からいくつかの神経細胞活動記録にも成功した.
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