研究概要 |
本研究の目的は,脳で実現される適応運動制御機構を理解し,ロボットや医療機器等に用いられる実機モータ制御に応用することにある.これにより,小脳を中核とする運動の制御と学習に関する神経科学的理解が進むと同時に,生物と同等の運動学習機能を有する新たなモータ制御やロボット制御技術の開発に繋がるものと期待できる.本目的を達成するために,以下の具体的研究項目について研究を実施する:1) 前庭動眼反射(VOR), 眼球運動神経積分器(ONI)運動学習時の小脳,脳幹神経活動評価,2) 小脳―脳幹ループを陽に記述したVOR, ONI運動学習モデルの構築,3) 小脳―脳幹型コントローラの構築,4) 小脳・脳幹BMIによるロボット制御.平成25年度は, 平成24年度に得られた実験データならびにこれまでの解剖・生理学的知見をもとに, 主に構成論的アプローチにより研究を進め, 研究項目2)の達成を目指した.また, 研究遂行過程で得られた予測の確認のため, 適宜上記1)の実験を実施した.まず, これまでに構築し, 眼球運動ならびにPurkinje細胞活動を忠実に再現できることを確認したVORモデルに, 最新の知見に基づき小脳皮質神経回路網内シナプス可塑性を実装した.次に,これまでに構築したONIを実現する脳幹神経回路モデルを両眼ならびに耳側・鼻側別の記述に拡張した.これにより,小脳・脳幹ループを陽に記述したVOR・ONI両眼球運動ならびにそれらの運動学習をシミュレート可能なモデルが一通り実装された.現在,このモデルを用い,実装した小脳皮質内シナプス可塑性の組合せにより, 初年度の実験に用いたVOR・ONIに関する複雑適応制御課題をシミュレートしている.
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今後の研究の推進方策 |
上述の通り,本研究では,以下の具体的研究項目について研究を実施する: 1) 前庭動眼反射(VOR), 眼球運動積分器(ONI)運動学習時の小脳, 脳幹神経活動評価 2) 小脳―脳幹ループを陽に記述したVOR, ONI運動学習モデルの構築 3) 小脳―脳幹型コントローラの構築 4) 小脳・脳幹BMIによるロボット制御 本年度は, 主に研究項目3)を実施する.この時点までに得られた知見を集約し, 小脳・脳幹型実機適応コントロ ーラを構築して,実機制御に応用する.応用例として,不安定系で比較的制御の難しい二輪倒立型ロボットの姿勢制御と,パーキンソン病患者に見られる振幅や周波数が時変的な手の振動(振戦)を補正するための制振自助具制御に取り組む.ここでは,PIDコントローラの代わりに上述の脳幹神経ネットワークモデルを簡略化したものを用い,小脳・脳幹ループを有する脳内適応運動制御機構により近いコントローラを構築し,複雑な目標軌道制御を実現する.小脳・脳幹モデルによる制振自助具のアイデアは特許公開済みであり,二輪倒立型ロボット制御に用いる小脳・脳幹型コントローラのパラメータを自助具制御用に最適化し,実用化を目指す.これらと平行して,研究項目4)のために金魚小脳ならびに脳幹神経細胞を用いたBMI技術を確立する.小脳・脳幹BMIによるロボットアーム適応制御では,金魚のVORおよびONI適応学習機能を利用する.
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