嗅覚一次中枢の嗅球では常にニューロンが新生し、神経回路の可塑性に寄与している。新生ニューロンの半数は既存の神経回路に組み込まれ、残りは細胞死により排除される。我々はこの新生ニューロンの選別が、マウスの食餌行動と休眠行動に伴って促進すること、この過程で新生ニューロンに対する末梢性匂い入力と嗅皮質由来の中枢性入力が中心的な役割を果たすことを見出している。本研究は、個体の行動様式に伴って新生ニューロンの神経回路への組み込みと排除が行われる過程を明らかにし、その神経分子メカニズムを明らかにすることを目的とした。本研究により以下のことが明らかになった。 ・レンチウイルスを用いて蛍光標識された嗅球新生ニューロン樹状突起のシナプス構造を観察し、摂食前のfilopodia形成促進、摂食および休眠行動中のspine形成促進という顕著な変化を起こすことが判明した。 ・鼻孔閉塞によって匂い入力遮断を行った嗅球では、新生ニューロンはシナプス前駆体を盛んに形成するが成熟したシナプス形成に至らない様子が観察された。 ・摂食行動以外の行動様式における嗅球新生ニューロンの選別を調べた。マウスに電気ショック刺激による恐怖誘導を行うと、10分以内の短時間に新生ニューロンの選別が促進することを見出した。この選別も嗅皮質由来の中枢性入力によって促進されていた。 ・以上より、「覚醒・睡眠の2段階モデル」を「末梢性・中枢性入力の統合モデル」に一般化することができた。in vivoにおける末梢性、中枢性シナプス入力の統合的理解の重要性を認識し、光遺伝学を用いたin vivoでのシナプス入力刺激実験に取り組んだ。光刺激による末梢性シナプス入力を報酬や侵害刺激と連合学習させることによって、新生ニューロンのspine形成が著しく促進することを見出し、今後の更なる解析の基盤を確立することができた。
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