研究課題
基盤研究(B)
中枢神経系の発生と発達の制御機構については、近年、関与する遺伝子群の同定などで神経細胞の分化制御や脳の高次構造形成など様々な理解が進んだが、例えば単一遺伝子の異常や神経細胞の遺伝子配列要因だけでは説明できない精神・神経疾患がまだまだ存在するなど、全容解明には至っていない。この問題解決のため本研究課題は、細胞内在性のエピゲノム要因や細胞外の微小環境(ニッチ)要因がいかに中枢神経系の発生と発達に関与しているかという研究代表者の独創的観点で取り組むことによりブレイクスルーを得るべく実施されている。平成24年度の特筆すべき成果のひとつは、大脳皮質や海馬のニューロンに発現しピストンH3K9の脱メチル化というエピゲノム制御を担うgasc1遺伝子の変異マウスがヒト精神運動発達障害様の行動異常を呈するというこれまで見出した現象を一部説明し得る、電気生理学的な新知見である。すなわち、同変異成獣マウスと対照正常マウスの海馬スライス切片について行ったCA3→CAI錐体細胞形成シナプス応答による集合EPSP解析によって、変異マウス海馬のLTPはテタヌス刺激後60分まで正常対照より有意な増強が観察された。もう一つの特筆すべき成果は、神経幹細胞ニッチの分子基盤解明のため新しい切り口で本課題が遂行している人工合成ポリマーのアレイスライドを用いるアプローチにより得たものである。エジンバラ大学との共同研究で約400種類のポリマーについて神経幹細胞を維持し得るかどうかを指標に探索して得たヒットポリマーのひとつが、従来必須であったFGF2やWntシグナル経路を刺激せずともin vitroにおいて胎生期マウス神経幹細胞に自己複製能を賦与できるということを、ニューロスフェア形成アッセイ等により示したという成果である。これらの研究実績は、冒頭の問題解決に迫る重要な示唆を与えるものである。
2: おおむね順調に進展している
当課題で取り組んでいる精神・神経疾患モデルマウスの行動異常の理解に重要な示唆を与える成果や、神経幹細胞の自己複製を支持するポリマーの同定や特性解析の成果に加え、神経幹細胞のアストログリア分化能の獲得にメチル化DNA修飾酵素TET3が関与しそれがヒドロキシメチル化を経るものであることの発見など、概ね順調な課題遂行が成されていると考えられるため。
当課題が取り組む精神・神経疾患モデルマウス(gasc1変異マウス)については今年度得た糸口をもとに同マウスの脳の組織解析やin vitroでのシナプス形成アッセイなどを強化する。神経幹細胞の自己複製を支持するポリマーについては特性解析を継続推進する。その他TET3等の分子的観点での研究も推進する予定である。
当課題が取り組む精神・神経疾患モデルマウス(gasc1変異マウス)の解析に必要な抗体の性能がより高いことが必要であることから実施が必ずしも円滑でなかった実験が一部あるため、これについては次年度に抗体作成などを行うとともにより多くのモデルマウスを用いた実験を強化する。実験補助員の雇用による遂行も念頭に置いている。
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