我々の脳では、軸索と樹状突起という機能・構造的に異なる2種類の神経突起を介して、1000億個ものニューロンがネットワークを形成している。樹状突起は、他のニューロンや感覚受容器からの情報入力を担っており、その空間配置と大きさは入力シグナルの質と量を規定する主要因子となる。実際に生体脳では、同じ機能を担うニューロン群は、ほぼ同じ大きさの樹状突起を持ち、しかも特定の脳内空間に配置・配線されることにより機能ユニットを形成する。このような同種ニューロンの空間的な組織化は、遺伝情報に加えて、細胞外からの情報に規定されると考えられているが、その分子細胞基盤は不明なところが多い。申請者は、神経回路構造が比較的シンプルであるショウジョウバエを解析モデルとして採用し、独自の生体イメージング法と分子遺伝学的手法を組み合わせた実験システムを構築することにより神経回路の空間的組織化担う分子細胞基盤の同定と作動原理の解明を行った。その結果、ショウジョウバエ感覚ニューロンがタイル状に組織化されること、その組織化には「樹状突起間の反発作用」と「樹状突起と周辺組織との相互作用」という2つの異なる制御機構が協調的に働くことを発見し、それぞれを規定するコア制御因子群の同定に成功した(Yasunaga et al. Genes Dev 2015; Kanamori et al. Nature Commun 2015)。
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