研究概要 |
他者の行動は,その背景にある信念や意図を推測するために重要な手がかりを与える.また,他者の行動を注意深く観察することにより,ダイナミックに変化する社会状況においてどのような行動が最も適しているのかを,自らは行わずして学ぶことができる.このような他者の行動への注意と他者の行動の適切さの判断が,脳のどの領域のどのような神経活動によって実現されているのかを明らかにするため,マカクザルを用いた電気生理学的研究を実施した.まず,2頭のサルを60センチ四方のテーブルを挟んで向い合せに座らせ,互いに相手の行動情報を使って自己の最適行動を導くことを要求する行動課題(役割交代課題という)を考案した.課題遂行の正解率とリッキング運動を指標とした行動解析によって,各サルが自己の行動制御のために他者の行動情報を正しく利用していることを明らかにした.さらに,単一神経細胞活動記録法により,大脳前頭葉内側皮質の神経細胞が,他者の行動の過ちをリアルタイムで検出していることを見出した.特に,同皮質の背側部の神経細胞が,他者の行動が誤っていたか否かを忠実にモニターしているのに対し,腹側部の神経細胞は,他者の過ちをもとに自己の行動を正しく導くことに関与していることを明らかにした.以上の結果は,前頭葉内側皮質が観察学習において重要な役割を担っていることを示すと同時に,同部の異なる亜領域が観察学習の異なる側面に関与していることを示した点で画期的である.
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究の被験動物として購入したニホンザル個体2頭が,それまでに使用していた個体よりも体格がかなり小さかったため,新たにモンキーチェアを設計し,製作する必要性が生じた.設計・製作に時間を要したため,経費を次年度に繰り越した.これを除けば,本年度の研究費使用計画に変更はなく,当初予定通りの執行が見込まれる.
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