最終年度は、これまで得られた成果をさらに強化するために、定性的・定量的検討を継続した。前年度にパルブアルブミン含有GABAニューロンがギャップ結合を介する樹状突起網dendritic reticulumを形成している可能性に気づいたが、このことはゴルジとカハールの論争以来の神経解剖学の大前提、すなわち軸索とシナプスによるネットワークを基盤とするニューロン説に対して、網状説の復活ともいえる問題提起であるために、研究結果の発表に先立ち、慎重を期すべく、さらに詳細な検討を加えた。その結果、樹状突起網は単純なネットではなく、新皮質の形態構築に沿うかたちでの規則的構造の中に組み込まれながらも、樹状突起相互の結合という意味では、reticulumを形成していると言わざるを得ないことの確信を得た。この新しい概念は、平行して進めている体性感覚バレル野や、海馬のアンモン角と歯状回の観察においても確かめることができた。すなわち、ギャップ結合を介するパルブアルブミン含有GABAニューロンは間違いなくdendritic reticulumを形成し新皮質の基本構造の重要な一要素であること、同様の構造は脳の各部位に存在するが、一方で部位特異的な構成をとること、それが恐らく各脳領域の計算特性を規定していること、という結論に達した。以上の結果を学会発表するとともに、大きな成果が得られた3年間の研究結果を総合する論文を作成し投稿する段階にある。
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