研究課題
我々は、Atoh1およびPtf1aにそれぞれ相互にPtf1aおよびAtoh1をノックインしたマウス系統を作製し、Atoh1およびPtf1aがそれぞれ脳室帯と菱脳唇に異所性に発現するようにした。その結果、前者のマウスでは脳室帯から興奮性神経細胞が生まれ、後者では菱脳唇から抑制性神経細胞が生まれた。すなわち、Atoh1およびPtf1aが、それぞれ興奮性神経細胞および抑制性神経細胞を生み出すのに十分であるということが証明された。この結果は、Journal of Neuroscience誌に掲載された(2014)。次に、我々は、E12での発生途上の小脳原基のPtf1aを発現する領域の中に、さらにOlig2およびGsx1(Gsh1)という転写因子を発現するサブドメインがあることを見いだした。さらに、遺伝学的短期的リニエージ解析を行ったところ、Olig2陽性神経幹細胞からはプルキンエ細胞が、Gsx1陽性神経幹細胞からはPax2陽性介在神経細胞が選択的に生み出されるということを明らかにした。また中期的リニエージ解析により、「プルキンエ細胞(PJC)産生神経幹細胞」から「Pax2 IN産生神経幹細胞」への「時間形質の遷移」が起こっていることを明らかにした。また、Gsx1をPtf1a領域全てで異所性に発現するトランスジェニックマウスにおいて、プルキンエ細胞の産生が大きく減少しPax2 INの産生が増加すること、Olig2 KOマウスでも同様な表現型が見られること、Gsx1 KOマウスでは逆の表現型が見られることがわかった。以上から、Olig2およびGsx1が「PJC産生幹細胞」から「Pax2 IN産生幹細胞」の時間的形質変化を抑制および加速していることが示唆された。この結果は、Nature Communications誌に掲載された(2014)。
2: おおむね順調に進展している
小脳の抑制性神経細胞は複数種類あるが、それらが生み分けられるしくみについて、幹細胞の空間形質および時間形質という視点からおおむね明らかにできた。前者は、Journal of Neuroscience誌に掲載され、後者はNature Communications誌に掲載された。また、これら二つの成果は、Yahoo Newsや科学新聞などの多くのメディアで取り上げられた。以上から、研究は順調に進んでいると考えられる。
昨年度までで抑制性神経細胞系の解析はおおむね完了したので、本年度は興奮性神経細胞系の解析に重点をおいていきたい。特に、細胞周期の停止と神経細胞分化のメカニズムを明らかにするために、興奮性神経細胞である小脳顆粒細胞前駆細胞(GCPs)の系をモデルに研究を行う。GCPsの遺伝子発現、細胞周期、および細胞形態や移動様式について調べ、外顆粒層の内部においてGCPsがいかにして細胞周期を継続あるいは停止して顆粒細胞へと分化していくのか、その動態について詳細に解析する。また、さまざまな遺伝子発現について調べる過程で、GCPsの細胞周期の継続あるいは離脱に関わる可能性のある候補遺伝子を抽出し、遺伝子導入法やノックアウト(KO)/ノックダウン(KD)法によってその機能を検証し、GCPsから顆粒細胞へと「細胞周期を停止し分化」する分子機構について明らかにする。GCPsの研究で得られた知見からは、中枢神経系全体で共通の神経前駆細胞の増殖と分化のバランスの制御機構の解明につながるのではないかと考えている。
実験に利用しているレーザー顕微鏡のレーザー管が壊れたため、それを交換しないといけない。しかしながら、納入は平成26年度となってしまうため、平成25年度の研究費を平成26年度へと一部繰り越した。また、平成25年度は予想よりも早く研究が進んだため人件費を押さえることができたが(技術員1名)、平成26年度は人件費がかさむ(技術員2名)ことが予想される。まず、壊れたレーザー管のために約160万円支出する。さらに、技術員を2名にするために、さらに人件費がかかることになる。その他、マウス購入、成果の発表のための旅費、一般の消耗品、などに例年通りの支出が見込まれる。
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