研究課題/領域番号 |
24300139
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
沼川 忠広 熊本大学, 発生医学研究所, 特定事業研究員 (40425690)
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研究分担者 |
千葉 秀一 武蔵野大学, 付置研究所, 助教 (00510380)
長谷 都 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 講師 (20450611)
伊丹 千晶 埼玉医科大学, 医学部, 講師 (90392430)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 脳神経疾患 / 神経栄養因子 / ストレス / 細胞・組織 / 神経科学 |
研究実績の概要 |
ストレスホルモンの1つであるGlucocorticoidは、ストレス反応性の内分泌系であるHPA系の活性化により分泌され、ストレスに対する防御反応として重要である一方、慢性的なストレスではこのHPA系の機能亢進が観察され、中枢ニューロンの生存やシナプス可塑性に重要な脳由来神経栄養因子(BDNF)の発現/機能の低下と、うつ病発症との関係が疑われている。本研究では、以前に報告したGlucocorticoid受容体(GR)とBDNFの受容体TrkBの相互作用がグルタミン酸作動性(興奮性)ニューロンの神経伝達制御に関わることから(Numakawa et al., 2009 PNAS)、このGlucocorticoidおよびBDNF関連シグナルの相互作用に着目した、うつ病病態の理解を目指している。 本年度、BDNFによる神経伝達促進を正に制御することで、ストレス抵抗性を期待しているGR過剰発現マウス(GRマウス)の生殖可能な2 系統を得た。培養細胞を用いた解析では、グルココルチコイドストレスにより抑制されたBDNF機能(神経伝達物質であるグルタミン酸放出やカルシウム関連細胞内シグナルの増強)の繊維芽細胞増殖因子によるレスキュー効果がGRのRNAiによるノックダウン操作で喪失したことから、やはりGR機能増強が必須であることなどが確認できた(論文作成中)。また、我々が脳の海馬領域においてBDNF発現増加作用を動物個体レベルで確認したcarbergoline (ドーパミンD2受容体アゴニスト, Chiba, Numakawa et al., 2010)が酸化ストレスに曝された大脳皮質ニューロンを保護する効果を有しており、これにはグルタミン酸トランスポーター発現増加を介した興奮毒性の減少が関与する可能性を新たに報告した(Odaka, Numakawa., PloS one, 2014)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
慢性的なグルココルチコイド曝露をはじめとする外的ストレスに対して、抵抗性を発揮すると期待される大脳皮質でGRを過剰発現する遺伝子改変マウス(GRマウス)の作成に成功した。これは、もうひとつのグルココルチコイド受容体であるmineralocorticoid receptor (MR)には影響を与えず、GR関連シグナルのみ動物個体レベルで強化するツールを得たことを意味している。また、細胞レベルでの解析では、繊維芽細胞増殖因子がGR関連シグナルにプラスに影響するなど、興味深い知見が得られつつある。我々は既に、拘束ストレスや、グルココルチコイド曝露によりGR発現が特異的に減少し(MR発現は変化しない)、その結果、BDNF依存的な神経伝達が低下し、うつ病病態と関連するのではないかとの仮説を立て、それに基づき研究を進めてきている。ところが、特に、培養大脳皮質ニューロンを用いたin vitroでの解析により、繊維芽細胞増殖因子の投与ではMR関連シグナルも増強することが明らかになってきた。GRはグルココルチコイドへの親和性がMRに比べて低く、ストレスで誘発される高濃度グルココルチコイド存在下において働いている可能性がある。一方で、繊維芽細胞増殖因子にはGRを介した直接的、またはMRを介した間接的作用でBDNF機能を保護する可能性があり、分子レベルでの詳細な解析が順調に進んでいる。うつ病病態におけるグルココルチコイドストレスとBDNFの相互作用を、GRおよびMRの発現・機能変化を基盤にし、培養ニューロンや、今回確立したGRマウスを用いたストレス負荷試験で詳細に解析する計画は順調に進んでおり、本年度は、更なる論文発表を達成できる段階に来ている。
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今後の研究の推進方策 |
確立した大脳皮質におけるGRの強発現マウス(GRマウス)は、最終的には繁殖の可能な2 系統を得た。これは、野生型に比べてGRの発現が非常に強い系統を含む為、2系統の動物の表現型を比較することにより、ストレス耐性およびBDNF機能の増強において、GR発現/機能の重要性を考察するに適したツールを得たと考えられる。これまでに我々は、培養細胞およびラットを用いた実験系にて、グルココルチコイド曝露ストレスおよび拘束ストレスによるGRの発現低下と、それに伴うBDNFの機能(神経伝達促進など)の減少を確認しているが、GRの発現強度の違いによるストレス抵抗性が、動物レベルでも実現されるか、解析を行いたい。また、BDNFの重要性は、それが細胞外に分泌されて近隣の細胞に受容体TrkBを介して作用し、その結果神経細胞の機能や質が変化することである。そのため、細胞内でのBDNFの輸送やその細胞外放出に対しても、グルココルチコイドおよびその受容体GRが積極的に関与する可能性を考え、細胞内分子動態イメージングなどの詳細な解析を行う。さらに、成熟した動物および培養神経細胞のみならず、未熟な神経幹細胞が豊富に存在する脳の発達時期でのグルココルチコイドストレスの影響も解析する。神経分化におけるグルココルチコイド/GR、およびBDNFに代表される栄養因子群の関与を検討し、発達段階での脆弱性の形成が、成長後、精神疾患発症とどのように関連するのか、因果関係を考察したい。
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