研究課題/領域番号 |
24300142
|
研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
赤川 公朗 杏林大学, 医学部, 教授 (80129303)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | シンタキシン1A / シンタキシン1B / シナプス伝達 / 機能分化 / 開口放出 / 神経成長因子 / グリア細胞 |
研究概要 |
培養神経細胞を用いた電気生理学的解析から、sy1BKOマウスではGABA及びグルタミン酸性シナプスにおいて微小シナプス後電流の頻度が低下したが、誘発性シナプス後電流におけるpaired-pulse比が増大した。またこれらのシナプスでは小胞のturn overが促進されていること並びにreleasable poolが低下していることが示された(PLoS ONE 9(2014): e90004.)。これらの所見はsy1AKOでは全く認められず、両者がシナプスにおいて異なる働きをしていることが明らかとなった。一方、sy1BKOより得た培養神経細胞は生存率が低く、この低下はBDNF, neurotropin-3により回復した。更にsy1BKOのグリアではこれらの神経成長因子分泌が低下していることが示され、sy1Bを強制発現させるとその分泌能が回復したことから、sy1Bは成長因子群の放出作用も制御していることが分かった(J.Neurochem., 2014 in press)。興味あることにsy1A/1B double KOマウスは胎生期致死であるが、胎児期より得た培養神経細胞でも誘発性シナプス伝達が存在することが認められた。しかしその様相は通常と異なりasynchronousであり時間経過も遷延していた(Plos one 2014)。この観察は従来考えられていたschemeと異なり、シナプス伝達直前に生じる開口放出の誘導そのものにはsy1A,1Bが必要でなく、その時間的修飾にのみ作用しているという新たな知見を見出した。換言すると細胞内小胞の融合現象にシンタキシンファミリー分子が必須であるという従来の考えが訂正される可能性を示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シンタキシン1A(sy1A)とsy1Bの機能差について詳細が明らかとなりつつある。前者では遅いシナプス伝達を行うモノアミン系の分泌が低下していることがこれまでに明らかとなっていたが、sy1BKOマウスでの解析から速いシナプス伝達におけるsy1Bの役割が明確となってきた。またシナプス伝達のみならず、両者が成長因子の分泌にも異なる挙動をとることが明らかとなった。これらの所見は従来考えられていたように、両者が同一の機能を有するという固定観念を正すうえで重要な知見となった。また両者がシナプスに存在する小胞の開口放出に必須であるという考えに重大な疑問を呈したことは大きな前進である。更にグリア細胞からの神経成長因子分泌にはsy1Aではなくsy1Bが介在していることを初めて明らかにした。
|
今後の研究の推進方策 |
今後、syntaxin1Aとsyntaxin1Bの機能の違いを作り出する細胞内因子、機序を同定するとともに、両者が有芯小胞やシナプス小胞とどのような相互作用をするか確認する研究計画を推し進める予定である。その為にvesicle親和性の検討やyeast two-hybrid法による研究推進を予定している。
|
次年度の研究費の使用計画 |
研究計画に則り比較的達成度が速く進行しており、予想外の新たな結果も得られつつある。しかしそれに伴い、実験の進行順序にも若干の変更が生じている。このような状況を鑑みて、下記の26年度研究計画を円滑に進めるために次年度使用額が必要とされる。 (1)KOマウスの脳黒質神経細胞を培養して、高カリウム刺激によるカテコラミン分泌を測定する。(2)syntaxin1A及び syntaxin1Bに対するvesicle親和性を検討する。脳ホノジネートよりショ糖密度勾配遠心法により得たシナプス小胞、有芯小胞を得る。両分画試料または可溶化試料に対して、syntaxin1A及び syntaxin1Bとの結合特異性をバッチ法、ELISA、免疫沈降法等により確認する。(3)Yeast two-hybrid法によりsyntaxin1Aと synaxin1Bの機能差をもたらす結合因子を探求する。同定された候補因子との結合性は親和性カラムや免疫沈降法で確認し、SiRNA法によりそれらの候補因子を抑制した際の培養細胞からの放出阻害を調べる。
|