本研究では、自らの意思をもって行動を「実行する」あるいは「実行しない」ラットにおいて、大脳皮質運動野の錐体細胞や介在細胞が近傍の神経細胞に与える興奮性または抑制性インパクトを実測することを目的とした。そのために、研究代表者が確立した行動学的手法にマルチニューロン記録法や傍細胞記録法などの電気生理学的手法を組み合わせて、運動発現に関わる錐体細胞と介在細胞の相互作用を示す機能的配線図を完成させ、行動の実行と非実行を担う皮質回路上の運動情報の形成と流れ方の仕組みを解明することを目指した。 平成27年度は、すでに確立した行動課題(スパウトレバーを用いた前肢Go/No-go運動課題や外発性/内発性運動課題)を遂行しているラットの一次および二次運動野におけるマルチニューロン活動の記録データを整理し、実験データベースの構築と詳細な解析を進めた。 具体的には、頭部を固定したラットにスパウトレバーを操作する前肢Go/No-go運動課題あるいは外発性/内発性運動課題を学習させ、一次または二次運動野の前肢領域に16または32チャンネル・シリコンプローブを挿入して機能的なマルチニューロン活動を記録した。次に、スパイク・ソーティングなどの一次解析を経た後に、課題関連行動と発火頻度や同期性との関係を定量的に解析した。その結果、一次運動野と二次運動野は機能的な活動がかなり似通っているものの、二次運動野はより高次の脳機能情報を表象すること、両領域の発火同期性は確かに存在するが機能的な発火頻度の変化とは比較的独立であること、などを見出した。 これらの研究成果は学会や研究会で発表するとともに、一部は学術誌に原著論文として発表した。現在、残る研究知見も学術誌に論文投稿中である。
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