研究課題/領域番号 |
24300149
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
友田 明美 福井大学, 子どものこころの発達研究センター, 教授 (80244135)
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研究分担者 |
水野 敬 独立行政法人理化学研究所, 分子イメージング科学研究センター, 基礎科学特別研究員 (60464616)
小坂 浩隆 福井大学, 子どものこころの発達研究センター, 特命准教授 (70401966)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 発達・教育 / 学習意欲 / ADHD / 脳画像解析 / fMRI / 遺伝子多型解析 / 視床 / 報酬系 |
研究概要 |
ADHDは、年齢あるいは発達に不釣り合いな不注意、衝動性、多動性等を特徴とする発達障害の一つで、社会的な活動や学校生活への適応が困難をきたす。特に学童では3~5%と非常に高い疾病率であり、教育や医療面での専門的な支援が課題となっている。 ADHD治療薬として一般的に用いられているメチルフェニデート徐放剤(OROS-MPH)は、ADHD患者の脳内で不足する神経伝達物質ドーパミンの濃度を増加させる薬理作用がある。ドーパミン神経は、他者にほめられることなどを行動・学習の動機につなげる「報酬系」に関わっており、OROS-MPHはADHDで見られる報酬への感受性低下の改善に効果がある。この効果の判定には6~8週間にわたる投薬が必要とされているが、長期投与が脳神経機能に与える詳細な影響はこれまで検討されていなかった。そこで、10~16歳の健常児17名(13.0±1.9歳)と未治療のADHD患児17名(13.3±2.2歳)を対象に金銭報酬を伴うカードめくりテストを行い、報酬系の刺激で活性化する脳部位をfMRIで特定した。ADHD患児においては、同様の実験を3カ月間の投薬治療後にも行った。投薬前のADHD患児と健常児の比較から、高金額の報酬が期待できる時は、両者で同程度の腹側線条体の側坐核と視床の活性化が見られた。 一方、低金額の報酬ではADHD患児における側坐核と視床の活性化は健常児に比べて低く、OROS-MPHの長期投与後はこれら両部位の活性化がともに健常児と同程度まで改善することがわかった。また、ADHDの重症度を保護者への質問表から評価する不注意スコアと多動・衝動性スコアを合わせた総スコアは、治療前平均24.1点から治療後平均15.3点と約40%軽減しており、低金額における側坐核と視床の活性化の回復とADHDの不注意症状の改善に相関があることが確認できた。 今回の成果は、fMRIを用いた脳機能診断がOROS-MPHを始めとするADHD治療薬の客観的な薬効評価に有用であり、ADHDの病態解明、治療法の開発に貢献することが期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
fMRIを用いたADHD児童の脳機能診断がメチルフェニデート徐放剤(OROS-MPH)を始めとするADHD治療薬の客観的な薬効評価に有用であり、ADHDの病態解明、治療法の開発に貢献することが期待できることを、当該年度の成果で確認できたため。
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今後の研究の推進方策 |
機能的MRI(fMRI)を用いて金銭報酬が得られる認知課題施行時の脳内報酬系および実行機能に関わる認知課題遂行時の前頭前野機能系の障害の程度を神経賦活計測により検索する。さらに、大脳白質・灰白質の形態画像を収集する。 これら脳機能・形態に関する非侵襲的脳イメージングを活用しADHDの神経科学的基盤を解明する。 1)ADHD児と健常児群や他の疾患に伴う多動症状を呈する群の神経ネットワークとの違いを解明する。 2)ADHDの分子遺伝学的バイオマーカー(ドーパミン関連遺伝子・オキシトシン関連遺伝子多型)やイメージングバイオマーカーを特定することで、新規診断法の開発を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
I.海外から注意欠陥多動性障害(ADHD)の臨床研究・治療に秀でた講師を招聘し、国際ADHDシンポジウムを開催する。相互の情報交換およびこれまでに得られた成果を検証する。 II.脳形態(VBM)・機能(fMRI)計測法を用いたMPH投薬によるADHDの学習動機付け改善効果の検証 平成24年度で得られた研究成果{(1)金銭報酬が得られる認知課題施行時の脳内報酬系(側坐核や基底核)、(2)ワーキングメモリや注意抑制機能といった実行機能課題遂行時の前頭前野機能系、および(3)実行機能課題に金銭報酬を加えた前頭前野機能系と報酬系機能の相互作用}の中から、ADHD患者における学習動機低下の神経基盤評価として有用な試験系を選定し、MPH投与前後の選定課題遂行による神経賦活変化により、その治療効果を検証する。治療効果の判定に際し、「III.ADHDのドーパミン関連遺伝子・オキシトシン関連遺伝子多型解析」から同定されたMPH効能関連遺伝子と、神経賦活変化の関連についても検討する。 III.ADHD患者の遺伝子多型解析 平成24年度に同定された遺伝子診断がADHD患者治療に対する有効性を検証し、MPH投薬の臨床効果を予測するシステムを開発する。 IV.ADHDのイメージングバイオマーカー新規開発 本年度の目標は、具体的バイオマーカーの開発である。平成24年度で得られた各MR画像データ(脳灰白質の体積VBMや賦活fMRIなど)を多方面から確認することで、ADHDの病態解明に近づけ、ADHDの診断補助としてのイメージングバイオマーカーを確立させていく。 VI.中間的に得られた成果を世界生物学的精神医学会国際会議(京都)、欧州児童青年精神医学会(ダブ リン)にて参加発表、北米神経科学会(サンディエゴ)にて参加し、意見交換を行う。
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