研究課題
ムチン型糖鎖の機能は、その糖鎖構造解析や糖鎖合成が困難であるためにほとんどわかっていない。C1galt1は、ムチン型糖鎖の根本の部分であるコア1構造を合成する糖転移酵素である。成獣マウスの造血におけるムチン型糖鎖の機能を明らかにするためにMx1-Creマウスをドライバーマウスとしてインターフェロンによる誘導型C1galt1コンディショナルノックアウトマウス(Mx1-C1)を作製した。Mx1-C1マウスは重度な血小板減少症を発症し、巨大血小板、出血時間の延長が見られた。また、血小板を産生する巨核球の数およびその分化の指標である多倍数化の変化は正常であった。しかしながら、巨核球の最終分化を示す胞体突起形成能がMx1-C1マウスで著しく低下していた。血小板減少の原因として脾臓での捕捉によることも考えられたが、脾摘したMx1-C1マウスにおいても血小板減少が観察されたことによりその可能性は否定された。さらに、X線照射した野生型マウスにMx1-C1マウスの骨髄を移植した結果、同様な血小板減少の表現型が得られたことにより、造血系細胞以外の細胞の影響も否定された。続いて、この表現型の分子メカニズム解明のため、ムチン型糖鎖をもつ巨核球/血小板特異的な糖タンパク質であるGPIbαに注目した。巨核球でのGPIbαの転写量は、野生型とMx1-C1で同じレベルの発現量であるのに対し、Mx1-C1マウスの骨髄および血小板におけるGPIbαタンパク質は著しく低下していた。さらにMx1-C1マウス末梢血中の血小板微小管構造に形態異常が観察された。以上により、Mx1-C1マウスにおいてGPIbαタンパク質が糖鎖不全により発現が低下し、血小板微小管構造異常を伴う巨大血小板性血小板減少症を発症することが示された。
2: おおむね順調に進展している
ムチン型糖鎖合成酵素C1galt1誘導型コンディショナルノックアウトマウスのより詳細な表現型解析をおこなった。血小板の脾摘効果の検証、骨髄移植による造血系細胞に注目した検証をおこなうことにより、巨核球分化異常がこのマウスで見られる血小板減少症の主な原因であることを証明した。当初は、プロテオミクス解析により複数候補分子を選別し、その原因分子の同定することにより、その分子メカニズムを解明する予定であったが、ノックアウトマウスの表現型の情報と糖鎖修飾分子という情報によって、GPIbαという糖タンパク質が候補分子として浮かんだ。そのために、プロテオミクス解析より先にこのノックアウトマウスにおけるGPIbαの挙動を解析した。また、当初のsiRNAノックダウンの系からノックアウトマウスの組織を使用することに計画変更した。
骨髄細胞においてムチン型糖鎖合成酵素の一つであるC1galt1欠損マウスは、巨大血小板性血小板減少症を呈し、その原因は、血小板産生に携わる巨核球の最終分化の異常であることがわかった。その分子メカニズムの一つとして、GPIbαの糖鎖修飾不全によるタンパク質レベルでの発現減少によるものであった。しかしながら、この欠損マウスにおいてGPIbαの発現が完全に消失しているわけではなく、他のムチン型糖鎖をもつ糖タンパク質の機能不全が巨核球分化異常をきたす可能性も考えられる。次年度は、その新規機能分子の同定のため、C1galt1欠損マウスの血小板を採取し、プロテオミクス解析によりムチン型糖鎖不全の糖タンパク質の同定をする。血小板減少症を示すマウスから血小板を得るためには多数のマウスを必要とする。よってまずはC1galt1の酵素活性が欠損した細胞株を用いて、プロテオミクス解析を行い、実験系を確立する。今回は、トリプシン処理した糖ペプチドをレクチンでエンリッチし、質量分析によって糖ペプチドを同定する。利点としては、検出する分子が既に糖ペプチドであるため、その時点でムチン型糖鎖を持つ糖タンパク質であることが判明する。実験系の確立後、C1galt1欠損血小板を用いてムチン型糖鎖をもつ糖タンパク質を同定する。複数の候補糖タンパク質が同定できると予想されるが、どの分子が血小板減少症の表現型に関与する分子であるかは、様々なデータベースを用いて検証する。また、機能未知な分子であれば新規に遺伝子改変マウスを作製して表現型の確認をおこなう。
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Blood
巻: 122 ページ: 1649-1657
10.1182/blood-2012-12-471102.