研究課題/領域番号 |
24300159
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐久間 一郎 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50178597)
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研究分担者 |
中沢 一雄 独立行政法人国立循環器病研究センター, 研究情報基盤管理室, 研究室長 (50198058)
本荘 晴朗 名古屋大学, 環境医学研究所, 准教授 (70262912)
芦原 貴司 滋賀医科大学, 医学部, 助教 (80396259)
小林 英津子 (小林 英津子) 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20345268)
荒船 龍彦 東京電機大学, 理工学部, 助教 (50376597)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 不整脈 / 光学マッピング / 3次元興奮伝播 / リエントリ / シミュレーション |
研究概要 |
心外膜・心内膜電位同時光学計測を可能とする実験技術の開発に取り組みH25年度には以下2つの項目について研究を実施した。①解剖学的構造を保った非切開心臓を対象とする心内膜光学計測システムの開発、切開を行わず自然な興奮様態を示す心臓において心臓内側の興奮を光学計測することが可能な従来には無い新しいシステムの構築。②心外膜・心内膜電位同時光学計測システムの開発、である。 心内膜光学計測システムの開発では心腔内に細径の内視鏡を挿入することから、光学系的には集光効率の悪いシステムとなり、興奮伝播光マッピングの時間分解能の制約となるが、構築した高速度カメラ、半導体レーザー、直径4.1mm直視軟性鏡から構成されるシステムでは、従来の心外膜光学計測システムと同等の良好なシグナル計測に成功した。また3000fpsという高速度撮像で得られたノイズの大きな信号に対しデジタル的なフィルタリングの適用を試み、特徴的な電位信号の抽出を実現した。 次に、新たに構築した心内膜光学計測システムと心外膜光学計測システムを統合し、同時計測システムを構築した。各システムで得られた計測結果画像の位置、姿勢のレジストレーションを行う必要があるが、計測システムの変更が不必要かつ簡便で迅速に行えるラインレーザーの透過光を用いた手法を提案した。これは心臓外側からラインレーザーを走査し、反射光と透過光を各システムで同時に計測することでレジストレーションを行うもので切片標本を用いた精度評価実験によってサブミリ精度を有することを実証し、アプリケーションとして右心壁での同時光学計測にも成功した。 本年度構築したシステムにより心臓内側の興奮情報と心臓外側の興奮情報と統合することで三次元での興奮伝播把握に将来的に取り組むことができ、薬効解析や効果的不整脈治療の基盤となりうる心臓電気生理学的に詳細な現象解明が可能となると予想される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の目的は光学計測では把握のできない組織深部の興奮伝播を把握可能とする3次元興奮伝播推定であり、そこに至るプロセスとして大きく3つのステップを想定していた。①心内膜光学計測システムの新規構築、②心外膜・心内膜同時光学計測システムの構築、③光学計測結果を元にした3次元興奮伝播推定である。現在は①、②についておおよそ完成しており③に移行できる基盤作りができていることから達成度としておおむね順調に進展していると考えている。 心内膜光学計測システムはハードウェア的要求仕様を満たした計測システムを構築できており、心内膜の活動電位を良好なシグナルで計測可能であることを実証している。さらなる課題として高速度撮像にも取り組みデジタル的な信号処理手法によりノイズの多い計測波形から所望の活動電位波形の抽出可能性を示すこともできた。最終目標である3次元興奮伝播推定のためには照明のスイッチング機構が必要であると想定しているが既存のシステムに光学チョッパを組み込むのみで可能である。 心外膜・心内膜同時光学計測システムにおける一番の課題であるレジストレーションはサブミリ精度での位置合わせが可能となっているが心内膜計測システムの計測範囲が直径6mm程度であることを考慮すればさらなる精度追求が必要であると考えており、レジストレーションに用いるラインレーザーの波長、輝度分布の最適化が課題となる。そこで異なる波長のレーザーを用いた場合と輝度分布を変更した時の精度比較を行うことで精度向上が期待できると予想されるため追加実験が必要である。 上記2つの課題を解決することで興奮伝播推定に必要なデータが得られ、最終課題である推定手法の開発に取り組むことができる。従って①心内膜光学計測システム、②心外膜・心内膜電位同時光学計測システムについては8割達成しており、おおむね順調に遂行していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画は達成度の項目でも述べたように心内膜光学計測システムに光学チョッパの組み込み、レジストレーションのための異なる波長、輝度分布のラインレーザー照射実験を行った後に以下3つの段階を踏み興奮伝播推定に向けた研究を遂行する予定である。 最初に切片標本による透過光を用いた光学計測の定量的評価を行う。先行研究において通常の励起光照射と比較して透過光を用いた場合ではより深い組織の影響を受けた興奮を観察できると示唆している。ただし観察される組織深さは励起光源の強度等のパラメータに依存していると考えられるが、未だ定量的評価がされていない。そこで我々は励起光強度、組織形状、標本厚さといったパラメータを定量的に計測し、電極による深さ方向の心筋電位計測結果と比較することで透過光によってどれほどの深さの部位を計測可能であるかを明らかにする。 次に心壁深部の興奮伝播推定を行う。透過光計測の定量的評価によって得られた知見を元に、異なる照明条件による組織表面の光学計測結果である輝度分布から心壁深部の興奮を電気生理学的に逆問題として推定する。現在では体外の心電情報から心臓の興奮様態を逆問題的に推定する手法が数多く開発されており、その手法を参考にしながら推定手法を開発し、電極計測結果と比較し有効性を検証する。 最後に非切開心臓にも適用できるよう内視鏡装置を開発する。推定手法の開発までは切片標本を用いた実験を行うが自然な興奮様態を捉えるために解剖学的構造を完全に保った非切開心臓での計測が望ましい。したがって励起光強度変更、形状取得、標本厚さが計測できる内視鏡システムを新たに構築する。 以上3つのプロセスを経て非切開心臓での心壁内興奮伝播推定を可能とすることで、薬効解析や効果的不整脈治療の基盤となりうる詳細な現象把握装置の開発を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
レジストレーション精度向上のための追加実験が必要となったが動物実験は共同実験先でしか行えず使用動物の在庫状況から動物実験は次年度に延期しなければならない状況であった。したがって実験計画の再考も含めて、追加実験にて必要となる実験装置の購入費用を次年度に繰り越す必要があった。 次年度に計画している実験として2つある。まず心外膜・心内膜同時計測におけるレジストレーション精度向上のための実験を行う予定であり、先に述べたがそこでは異なる波長のラインレーザーが必要となる。 次に励起光照明条件を変更し観察する実験がある。ここでは励起光の照射方向を切り替えるための光学チョッパが必要となる。したがって異なる波長のラインレーザー、光学チョッパなどの光学部品の購入を計画している。
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