研究課題/領域番号 |
24300162
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
村上 達也 京都大学, 物質-細胞統合システム拠点, 准教授 (90410737)
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研究分担者 |
梅山 有和 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30378806)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ナノバイオサイエンス / 細胞工学 |
研究概要 |
昨年度は、半導体性の単層カーボンナノチューブ(semiconducting single-walled carbon nanotube, s-SWNT)の物性評価について顕著な進展が見られた。一方、s-SWNTのアミロイドターゲティングに関しては明確な成果は得られなかった。以下、具体的に説明する。s-SWNTは多数のカイラリティ成分からなり、これまでは混合物として評価を行ってきた。しかしレーザー強度軽減、レーザー照射時間短縮、s-SWNT使用濃度軽減、という観点から、高い光線力学効果を示すs-SWNTカイラリティ成分の同定が必要である。そこで近赤外領域(650-1100 nm)に強い吸収を持つ(6,4)-SWNT, (6,5)-SWNT, (12,1)-SWNTの3つのs-SWNTを分離濃縮する技術を研究室内で確立した。各カイラリティ成分の近赤外ピーク波長でレーザー照射すると、(6,4)-SWNTが顕著な一重項酸素産生能を示し、(6,4)-SWNTと(12,1)-SWNTが高いスーパーオキシドアニオン産生能を示すことを見いだした。(6,4)-SWNTは高比重リポ蛋白質(HDL)で分散化・生体適合化され、活性酸素種依存的な殺細胞活性を示した。さらにカイラリティ濃縮によりSWNT使用量を減らすことができた結果、光線温熱効果は未濃縮s-SWNTに比べて低下し、細胞に対してより安全にレーザー照射が行えることもわかった。 一方、アミロイドターゲティングのためにアミロイド染色剤として知られるチオフラビンS(チオフラビンTと異なり、誘導体化に利用できる1級アミンを有する)でHDL化学修飾することを試みたが、目的物は得られなかった。上手くいかなかった原因の1つに、チオフラビンSが数種の化合物の混合物であることが考えられる。そこで単一成分であり、芳香族1級アミンを有するチオフラビンS誘導体(BTA-0)に変更し、HDLモデル化合物を用いて化学修飾を試みたところ、質量分析で目的物に相当するピークが検出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
s-SWNTのアミロイドターゲティングに関しては、合成上の問題により顕著な進展は見られなかったが、その解決策に関して、予備的ではあるが、ポジティブデータを得ることができた。 s-SWNTの単一カイラリティ濃縮により、近赤外光照射下、光線力学効果を顕著に増強させることができたことは、本申請課題を含むSWNT生物医学応用研究にとって、重要な成果である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度では、HDLで分散化された(6,4)-SWNTの細胞内局在を調べ、さらに細胞内でどの活性酸素種が産生しているかを調べる。この目的のため、(6,4)-SWNTを蛍光ラベルする。SWNTを化学修飾すると光線力学効果が減弱するため、蛍光物質はHDLに結合させ、そのHDLで(6,4)-SWNTを分散化する。エンドソーム・リソソームに蓄積する場合は、(6,4)-SWNTの光線力学効果によるエンドソーム膜破壊を経由して細胞質移行することを確認する。還元雰囲気下(最大10 mMグルタチオンが存在)の細胞質で、目的のスーパーオキシドアニオンとヒドロキシルラジカルが生成することを蛍光検出試薬で確認する。もし一重項酸素産生により細胞傷害性が見られる場合は、(12,1)-SWNTを用いる。細胞内一重項酸素検出試薬(DMAX)は東大院薬の浦野研究室と共同研究することで入手し、細胞内スーパーオキシドアニオン検出試薬(TCA)は既報に従って合成し、細胞内ヒドロキシルラジカル検出試薬(HPF)は積水メディカルから購入する。 アミロイドターゲティングについては、昨年度に引き続き、アミロイド認識能を有するチオフラビン誘導体BTA-0とHDLのコンジュゲートを化学合成し、そのHDLを用いて(6,4)-SWNTを分散化する。この複合体がcell free条件下で、組換えハンチンチンタンパク質から作製したアミロイド(連携研究者の田中元雅博士より入手)を認識し、近赤外光照射下、分解することを確認する。 さらに(6,4)-SWNTの高い光線力学効果を癌治療に応用することを目指し、光線力学効果の細胞内ターゲット部位であるミトコンドリアに(6,4)-SWNTを集積させる。具体的には、既報のミトコンドリアターゲティングペプチドをHDLに融合し、そのHDL変異体を用いて(6,4)-SWNTを分散化し、殺細胞活性の効率化を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
カーボンナノチューブのカイラリティ分離に予想以上に時間がかかり、細胞実験が計画したほど実施できなかったため。 (6,4)-SWNTが強い殺細胞活性を示す一重項酸素を顕著に効率良く産生するという昨年度の結果を受けて、新たにミトコンドリアターゲティングに関する研究も進める。ミトコンドリアは光線力学効果における細胞内ターゲットとされており、ミトコンドリア集積性(6,4)-SWNTは高い殺細胞活性を示すことが期待される。
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