昨年度までに、ボウマン膜、デスメ膜の代替え材料として絹フィブロインの有用性が示されたので、26年度は、実用化に近づくため材料の透明性向上関する技術開発を進めた。フィブロインファイバーの細線化と配向性を向上させるとともに、ファイバー形状を失わない程度にナノファイバーの部分的な溶解処理を行うことで材料の透明性の向上が認められた。また、これらの間隙にコラーゲンゲルを充てんすることで、フィブロインナノファイバーとファイバー間隙に生ずる屈折率の違いを解消することで界面における光の乱反射が抑えられ更なる透明性の向上が認められた。透明化処理を施したフィブロインナノファイバーを家兎角膜内へポケットを作製し、埋入試験を行った。埋入後、3か月間経時的な観察を続けた結果、重篤な組織反応や拒否反応は認められず、透明化処理材料の応用の可能性も示唆された。一方、透明化処理を施さないフィブロインナノファイバー材料に関してその長期安全性試験のために2羽の家兎を用いて1年間の埋入試験を行った。埋入したサンプルは、初期的には可視光の透過性が80%程度と不透明な材料であったが、一羽においては術後3か月程度で、もう一羽に関しては3週間という超早期に埋入したサンプルの確認が難しいほど著しく透明性が増した。この結果は、初期的に透明性が不十分な繊維材料でも、埋入部位における繊維材料の再配列や実質細胞から分泌されるコラーゲン等のタンパク生体成分が繊維間隙に充填されるなどの要件を満たせば、埋入後に透明化が起こることを示した。このメカニズムに関しては、一部組織学的検討を行った結果から傍証を得ているが更なる検討が必要である。全層角膜移植への対応に関しても、強度的にはいまだ不十分であり、さらなる検討が必要である。
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