研究実績の概要 |
当該年度は, 動的簡易有限要素モデルを用いた人工膝関節の深屈曲動作状態での応力変動解析を行った. 解析対象とした人工膝関節モデルは, 深屈曲対応型として注目を集めるモバイルベアリング型(以下MB型)である. MB型は, 関節面を形成する通常の摺動面に加えて, 脛骨インサートと脛骨コンポーネントの間に第2摺動面を有することを特徴とする. 深屈曲解析の結果より, 第2摺動面の存在により屈曲動作中の回旋動作を容易に獲得することができ, 結果として深屈曲位での力学的抵抗を軽減できることが明らかになった. また, 第2摺動面に摩耗粉等が存在し回旋抵抗が増加すると, 応力が上昇し安全性や耐久性が低下することが示唆された. 次いで, 生体力学的により自然な屈曲動作を再現するために, バーチャル膝関節シミュレータの開発を試みた. 実験用シミュレータモデルに骨・筋肉モデルを導入することでバーチャルシミュレータを構築し, 汎用人工膝関節を組み込んで屈曲解析を行った結果, 内旋動作をともなった最大100~120度程度までの屈曲動作を再現することができた. また, 股関節と膝関節を連動して生理的・能動的に駆動させる関節シミュレータおよびシミュレータ制御システムを開発し, 膝屈曲運動をさせた時の筋力と関節間力を計測する実験を行った. 本関節シミュレータは, 1) 自身の筋力による能動駆動方式を用いること, 2) 股関節と膝関節が連動する機構を用いること, 3) 1関節2アクチュエータ駆動であること, 4) 生理的な条件で荷重(=体重)負荷が行われること, 5) 深屈曲動作を再現できること, の条件を満たすものであり, 筋肉に模したワイヤーをモータで駆動することにより目標通りの股関節と膝関節の連動運動を生成した. また, 脛骨側人工膝関節下および膝蓋骨に設置されたカセンサにより関節間力を計測した. 開発した制御システムは, 目標通りの股関節と膝関節の連動運動を実現させるために必要な各ワイヤー張力を制御するものである. 実験の結果, 現状では生理的な運動を十分には再現することができていないものの, 静的な条件での実験によって測定された膝関節力は, 従来のシミュレーションによる計算やin vivo実験の結果と大きく異なるものではないことが分かった.
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