研究概要 |
骨格筋の機械的特性を示す筋スティフネスは,加齢変化や神経・筋疾患患者における筋強剛や筋固縮などの評価指標にしばしば用いられる.また,スポーツアスリートにおいて,パフォーマンス(100m走タイム,ジャンプ力)は筋スティフネスと強い関連性がある.さらに,筋収縮中の筋内部はアクチン-ミオシンの架橋形成が強固になることから,筋スティフネスおよび筋内圧が増加し,その変化は血液循環に大きな影響を与える.このように,筋スティフネスは,神経・筋生理,発育・加齢,スポーツ,呼吸・循環などの多種多様な研究分野に渡り,ヒト生体の骨格筋機能メカニズムを解明するうえで非常に重要な生体情報である.したがって,その定量方法の確立は,筋組織固有の特性や活動様相を解明するうえで重要な意味を持つ.本研究では,生体組織スティフネスの絶対定量が可能な最新超音波技術である勇断波エラストグラフィー法を駆使し,筋組織固有スティフネスの絶対定量化とその生理学的重要性の解明を目的とする. 当該年度においては,健常な若齢成人10名の上腕二頭筋による肘屈曲動作を対象とした.発揮筋力は,最大随意筋力(MVC)の15~60%の4段階とし,発揮した力が安定した区間のエラストグラフィー画像から,筋スティフネスをヤング率として算出した.測定は,2回ずつ,2日間に分けて行い,日内,日間変動からエラストグラフィの再現性を検証した. その結果,2回の測定の級内相関係数は,日内で0.978,日間で0.948であり,エラストグラフィの測定精度の高さが立証された.また,発揮する力の増大にともない筋ヤング率は直線的に増大した.さらに,その増加の傾き(kPa/%MVC)は,全対象者でほぼ同一の直線上に位置していた.以上のことから,単位面積の単位筋力あたりの筋スティフネス(固有スティフネス)は個人差がないことが明らかとなった.
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