研究実績の概要 |
27年度は24年度からの研究期間の最終年にあたりこれまでの研究成果を踏まえた上で、「他者との共感や人間的連帯を可能にするスポーツ行為と身体教育」についての理念提示を行うことを課題とした。理念提示を果たすために、研究計画において二つの方向から研究を進めた。一つは「人間にとってスポーツはどうあるべきか」であり、もう一つは「経済や政治では果たせないスポーツ独自の世界像を描く」という点である。本研究課題のキーワードである「共感」「人間的連帯」が実現されるスポーツの場をオリンピック大会に求めた。ここでまず明らかにされた連帯のパターンは、政治的・経済的連帯である。この連帯は競技団体が競技人口を増やしたりオリンピック競技への参入を目指すなどの行為によって現れるが人間的連帯を実現するものでないことが明らかになった。次に実存的連帯を「互いに共通する人間性」と定義づけて概念化しオリンピック解釈に応用した結果、それは競争状態から生み出されることが明らかになった。 本研究課題において追求してきた人間的連帯は実存的連帯を意味する。人間的連帯とスポーツ(具体的にはオリンピック競技)における実存的連帯は、この種の実存的連帯が競争行為を基盤としていることから両者の関係性を考察した。実存的連帯を生み出す競争とは何をオリンピックムーブメントの価値から考察を行った結果、excellence, friendship, respectが実存的連帯を実現する点が明らかにされた。ただし、その連帯は内面的な充実を必要とする。連帯は競技者の相互関係に無条件的かつ形式的に存在するのではない。試合の中で相互理解と相互の敬意を生み出す条件がそろった場合に生じる。その条件が内面的充実である。政治・経済的価値を超えた内面的充実という実存的連帯の成立に、スポーツにおける人間的価値が確認された。
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