研究概要 |
泳動作は,水中で行う運動であり,媒体である水に対してうまく力を作用させ,その力を自己の推進力に変えて移動する身体運動である.競泳選手は,いわゆる「水を捕える」という能力が優れており,時々刻々と変わる水の変化を感じ取りながら水に対して力を作用させ,推進力を生むのに最適な動きを実行している.この時,泳者は感覚器から多くの感覚情報の入力があるが,泳動作に必要な情報を選択するために,自己の何らかの身体感覚に意識を向けていると考えられる.先行研究では,泳者が泳中に意識すべき身体感覚をいくつか取り上げているが,これらの身体感覚への意識の違いが泳動作へどのように影響するのか不明なままである.そこで本研究では,泳者へ意識すべき箇所の指示を変え,その違いによって泳動作に与える影響を明らかにする.本研究によって,泳者の意識の向け方と泳動作の関係性を理解するのに役立つといえる. 本年度は環境構築に時間を要したため,熟練した競泳選手1名のみの報告となる.主な結論としては,ドルフィンキック中(スタート・ターン後に水面下を潜水して推進する泳技術)に意識してほしい身体感覚を指示し,試技後に泳者は「とても意識した」と主観的な回答をしており,その際何も意識していない時に比べて体幹へ意識を高めることで体幹の拮抗筋の共収縮割合が3.4%だったものが7.1%へと約2倍増加した.先行研究では体幹部の安定性がドルフィンキックの泳速度を高める要因であると報告されており,それに対してトレーニング現場でも体幹への意識が強く指示されるようになった.しかし,これまで体幹トレーニングの客観的な評価にまで至っていないという現状があったため,本研究で定量化できたことはコーチや選手にとって有益であると考える.
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