研究課題/領域番号 |
24300221
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
石井 直方 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (20151326)
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研究分担者 |
佐々木 一茂 日本女子大学, 家政学部, 講師 (00451849)
中里 浩一 日本体育大学, 体育学部, 教授 (00307993)
越智 英輔 明治学院大学, 教養部, 准教授 (90468778)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 筋活動 / クロスブリッジ / 超音波伝搬速度 / 安静時筋スティフネス / 長さースティフネス関係 / 筋伸張 |
研究概要 |
骨格筋の機能評価において、筋力、収縮速度などに加え、筋スティフネスは重要な要素となる。筋スティフネスは活動時筋スティフネス(Active stiffness; AS)と安静時筋スティフネス(Passive stiffness; PS)に分けられる。本研究では、超音波剪断波エラストグラフィーを用いることにより、ヒト生体内におけるASとPSをさまざまな条件下で測定し、動物モデル実験と合わせて、それらの分子的機構にアプローチすることを目的とする。平成25年度は主にヒト生体内でのPSの分析を行い、以下のような成果を得た。 (1)筋束長とPSの関係:上腕二頭筋を対象とし、肘関節角度をさまざまに変えて筋束長とPSを測定した。その結果、ある一定の長さを超えたときに急速にPSが増大することが判明した。こうして得られる筋束長―PS関係が、ストレッチングなどの介入によってどのように変化するかを分析中である。 (2)持続的筋緊張の効果:僧帽筋および腸肋筋を対象とし、特定の姿勢を長時間維持した場合のAS、およびその前後のPSの変化を測定した。その結果、姿勢保持中には一定のASが持続し、近赤外分光法により評価した筋酸素化レベルの低下に依存して姿勢解除後のPSへのスティフネス回復速度が遅延した。このことは、筋緊張の持続による疲労がPSに影響を及ぼすことを示唆する。 (3)一過的な筋活動後のPS:上腕二頭筋を対象とし、一過的な強い筋活動(等尺性筋力発揮)が筋活動後のPSに及ぼす効果を調べた。その結果、筋活動の強さに依存して、筋活動直後のPSが筋活動前のPSより一時的に低値となり、約20分後に元のレベルにまで回復した。このことは、PSが筋の活動状態に依存して急性に変化する成分をもつことを示唆する。その分子機構につき、主にtitin のリン酸化に着目して動物モデルで検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒトを対象とした実験から、安静時筋スティフネス(PS)が筋の受動的伸張に伴ってどのように変化するかが判明した。特に、一定の筋束長を超えたときに急激にPSが増加するという非線形の関係が得られ、この関係を数理的に分析することにより、スタティックストレッチやPNFストレッチなどが筋のPSにどのような効果をもたらすかを調べる基盤が得られるものと考える。さらに、強度の筋活動を行うことで、PSが一過的に筋活動前よりも低値になることが新たに判明した。このことは、PSが単に筋内の結合組織などの構造的要因のみによるものではなく、クロスブリッジや収縮装置の周辺のタンパク質の動的状態にも依存することを示唆しており、動物モデルを用いてその実態の解明を行っている。一方、動物モデルの測定系に関して、昨年度に引き続き生体内で筋の長軸方向に安定して微小長さ変化を与える手法が難航しており、遅延が続いている。次年度は振動法ばかりでなく、伸張―応力関係に基づいたスティフネス計測にシフトすることを検討している。また、ヒトを対象とした研究においては、筋深部のスティフネス測定が予想外に難航しており、深層部筋のスティフネス測定、協同筋間の活動配分などのテーマが遅延している。この点については、新たな超音波プローブを用いた測定を準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
平成24、25年度の研究成果をふまえ、最終年度として大きな研究成果を達成できるように研究を推進する。具体的には以下のテーマの研究を行い、それらの成果を原著論文としてまとめる。 (1)動的収縮時のAS:筋が動的収縮を行っている際のASを測定し、特に短縮性収縮時と伸張性収縮時の間で張力―AS関係に差異がないかを調べる。(2)静的ストレッチングがPSに及ぼす効果:静的ストレッチング前後で筋束長―PS関係を調べ、筋にどのような変化が生じたかを推定する。(3)筋活動を伴うストレッチングがPSに及ぼす効果:強度の筋活動後にストレッチングを行うような手法(例えばPNF)により、PSがさらに低下する可能性が示唆されたので、実際にそのような現象が見られるかを検討する。その結果を、より効果的なストレッチング方法の開発へとつなげる。(4)体幹深層部筋のPSと筋疲労:多裂筋などの深層部筋のASおよびPSの評価を新たなプローブを用いて行い、腰部筋疲労とPSの関係を調べる。(5)協同筋間の活動分配:同様に、深層部でのスティフネス測定が可能なプローブを用い、足関節底屈などの動作時の協同筋間の活動分配(腓腹筋とヒラメ筋など)について、筋力発揮レベルごとに調べる。(6)PSの急性変化の分子機構:動物モデルを用い、筋のPSが短期的および長期的に変化する条件で、筋線維内細胞骨格タンパク質の状態を調べる。特に、titin のリン酸化、およびそれに関わると推定されるA-キナーゼおよびカルシニュウリン(フォスファターゼ)の動態に着目して実験を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初予定では、動物実験モデルを作成し、タンパク質レベルでの発現解析と合わせた検討を行う予定であったが、動物体内の軟部組織やエンドコンプライアンスの影響を除くことが予想外に困難であったため、モデル作成が遅延している。そのため、動物購入費用(ラット)、微小振動試験機の作製にかかる費用、タンパク質分析などにかかる費用の出費が減少し、次年度使用予定に繰り越した。 動物モデルに関する実験の当初計画に微小な変更を加え、筋遠位端の腱を骨から切り離し、直接サーボモーターに連結して引っぱり試験および振動負荷試験を行うものとした。このようにすることで、筋のスティフネス測定を行い、さらにタンパク質分析を行えると考える。そのための機器作製と、タンパク質分析のための試薬類のための費用、動物購入費などに使用する計画である。
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