本研究は、素材のもつ「質感」、特に高感性機能素材の質感評価と設計を最終目標とする。そのため布から得られる視感覚と触感覚情報に関係する、有効な特性値の抽出を目的に実験を進めた。試料は、絹の西陣織物,綿の高島ちぢみである。本年度の主な結果を以下に示す。これらは関連学会で発表した。 1) 織物構造と光の反射パターンの関係(視感覚を主に想定した評価方法の提案): 西陣織物の織柄の特徴を識別できる光の入射角、受光角、さらに試料を回転させながらL*分布を測定する方法と官能検査の関係を論文にまとめ、Textile Research Journalに投稿し採択された。 2)表面に凹凸をもつ伝統織物(ちぢみ)の吸湿にともなう物性評価と風合いおよびその耐久性(触感覚を主に想定した特性値の提案) 試料を増やして、綿の高島ちぢみを構成する糸、布の伸長―回復特性を室温で様々な湿度(20%RHから90%RH,水中)環境下で実験し、強い撚りの影響を調べた。その結果、伸長特性の増加が、70%RH付近でみられた。糸の撚り数の効果は、布に発現したしぼ、さらにピケを付加した試料に顕著にみられた。一般に「高島ちぢみは、吸湿してもさらっとした触感がある」と言われるが、その要因は、しぼによる形状効果の影響と綿素材の吸湿性能変化にある。着用による風合い耐久性変化と構造の関係について検討した結果、しぼが洗濯を繰り返しても維持されることを確認した。また糸撚りの定量化にむけ、混率の異なる綿/レーヨンのボルテックス精紡糸を用いたねじり特性値の測定と顕微鏡を用いたより角度分布計測等の有効性を検討した。 3)布を触わって評価した時、視ただけで評価した時に得られる情報量を明確にするため、心理物理実験を行った。その結果、見ることによって得られる情報量が大きいことがわかった。
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