研究課題
渋味は、特定の受容体を介する基本味とは異なり、タンニンと唾液タンパク質あるいは細胞成分との結合を介して惹起される複合的な味覚刺激であると予想されているが、その詳細は明らかになっていない。本研究では、茶ポリフェノールの渋味特性を実験的に明らかにするとともに、各ポリフェノールの生体成分に対する結合特性を分子間相互作用の観点から解析することで、渋味の発現機構を明らかにすることを目的とした。茶ポリフェノールの渋味特性を解析した。ヒト官能試験により、テアフラビン類はカテキン類に比べて「先味」に多様性があり「後味」が長く続くことが示唆された。この傾向は味認装置では確認できなかった。ポリフェノールのタンパク質凝集能とリン脂質膜結合能および会合能を指標とした渋味評価法を開発し、全ての評価法でテアフラビン類がカテキン類に比べて渋味が強いとの結果を得た。この結果は味認識装置とは異なるがヒト官能試験とは一致していた。また、苦味と渋味の違いを明らかにするために、苦渋味抑制素材を用いてその効果を検証した。ヒト官能試験に代わる苦味の評価法を構築するために、テアフラビン類の苦味受容体の探索を開始した。茶ポリフェノールの生体成分に対する結合特性を解析した。テアフラビン類はカテキン類よりも多様な結合様式を取り得るためにタンパク質凝集能が強いことを見出した。また、リン脂質膜を張り付けた金電極を備えたQCMセンサを開発し、テアフラビン類がカテキン類よりも膜表面に結合し易いことや蓄積し易いことを確認した。茶ポリフェノールの酸化が渋味を強める可能性を想定し、茶ポリフェノールの安定性を評価した。その際、茶ポリフェノールの多くが貴重なものであることから、クーロアレイ型検出器を備えたHPLCによる微量評価法を構築した。
3: やや遅れている
目標のひとつである、茶ポリフェノールの渋味特性の一端(先味と後味の違いや渋味と苦味の違い)に関する様々な知見を得ることができたが、ヒト官能試験では強い蓄積性により複数の試料を評価することが困難であることから、渋味(表現)の多様性を解析するまでには至らなかった。その一方で、茶ポリフェノールのタンパク質凝集能、細胞膜結合能および会合能を指標とした新しい渋味評価法を開発できた。目標のひとつである、茶ポリフェノールの結合特性の一端(タンパク質やリン脂質膜に対する結合様式)に関する様々な知見を得ることができた。また、QCMを用いたリン脂質膜センサの開発に成功した。しかし、渋味発現の標的となる唾液タンパク質や膜タンパク質の同定には至らなかった。上記以外にも、渋味の強弱に影響すると予想される様々な因子について評価し、苦渋味抑制機構や酸化安定性に関する知見を得た。研究が遅れた理由としては、研究代表者の所属研究室の研究者が他の研究機関へ移動したことにともなう事務対応の想定外の増加や、唾液タンパク質や膜タンパク質の抽出効率や安定性が低く、標的分子の同定が進まなかったことによる。なお、得られた成果については、その多くを学会発表や著書にて公表しており、現在複数の雑誌に論文を投稿中である。
前年度に引き続き、茶ポリフェノールの渋味発現の標的となるタンパク質の同定を進めるとともに、渋味の発現機構の解明に向けて、渋味特性の解析で得られた知見と結合特性の解析で得られた知見との関係性を明らかにする。その際、渋味の多様性については渋味が蓄積し易いためにヒト官能試験による評価が困難であることから、本研究により構築した渋味の評価法やQCMを利用したリン脂質膜センサーを中心に解析を進める予定である。また、苦味と渋味の発現機構の違いについてこれまでに得られている知見以上に解析を進める予定である。これまでに得られた成果を利用した出口研究を目指し、構築した渋味評価法のさらなる改良を進め応用法の構築やキット化等を目指す。また、渋味の抑制素材の開発やそれを利用して茶ポリフェノールを多く含み渋味の少ない機能性強化食品の開発を進める予定である。
所属研究室の研究者が他の研究機関へ移動したことにともない、指導学生の配置転換を含め研究室運営上の様々な事務対応を行ったため、予定していた実験に着手できず、研究に遅延が生じたことやタンパク質の同定が遅れたために解析に必要な二次元電気泳動や質量分析の消耗品費など発生しなかったことによる。当初(平成25年度)の計画通り、研究進展に必要な消耗品(試薬・プラスチック製品など)の購入や研究成果の発表にかかわる旅費および論文作成費(別刷代も含む)として使用する予定である。
すべて 2013 その他
すべて 学会発表 (17件) (うち招待講演 3件) 図書 (1件) 備考 (1件)
http://sfns.u-shizuoka-ken.ac.jp/foodbioc/member-isit.html