研究実績の概要 |
今年度は以下の実績を得た。 1)これまでの研究で、大豆イソフラボンであるDaidzeinが骨格筋培養細胞においてミトコンドリア電子伝達系に関わる遺伝子の発現を増強させること、その制御メカニズムにNRF-1やPGC-1αなどの転写因子群が関わること、などを明らかとした。さらに、Daidzeinは脂肪細胞やマクロファージなどにも働きかけ、炎症反応を抑制することも併せて明らかにした。これらの結果を国際雑誌に発表した(Journal of Nutritional Biochemistry. 26(11):1193-99, 2015., PLoS One. 11(2):e0149676, 2016.)。さらに今年度は、Daidzeinが骨格筋培養細胞に与える影響について、転写因子ERRαに着目し検討を行った。その結果、1. Daidzeinは骨格筋細胞においてERRαの標的遺伝子である脂質代謝関連遺伝子の発現を増強すること、2. 強発現やレポーターアッセイなどの検討により、これらの効果はERRαの直接的な活性化を介する可能性があること、などを明らかとした(2015年度日本分子生物学会年会で報告)。 2)肥満などによって生じるインスリン抵抗性では、高血糖とともに細胞内のエネルギー欠乏(細胞内飢餓)が生じている事が示唆される。そこでこのような細胞内飢餓が骨格筋に与える影響を検討することにより、肥満が骨格筋の代謝に与える影響の一端を明らかとすることとした。TCA回路の主要酵素であるクエン酸合成酵素のヘテロノックアウトマウスに糖質制限を行うことにより細胞内飢餓のモデルマウスを作成し、筋の代謝関連遺伝子変化を検討した。この結果、糖質制限下においてノックアウトマウスの心筋では脂質やケトン体利用に関わる遺伝子の発現が上昇するのに対し、骨格筋ではこれらの変化は見られず、蛋白質合成に関与するS6 kinaseの活性が優位に低下することを見いだした。これらの結果は絶対的なエネルギー供給不足に対する、心筋と骨格筋での適応機構が異なることを示唆している。
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