研究課題/領域番号 |
24300260
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
永井 竜児 東海大学, 農学部, 准教授 (20315295)
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研究分担者 |
藤原 章雄 熊本大学, 生命科学研究部, 助教 (70452886)
荒木 朋洋 東海大学, 農学部, 教授 (20193071)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | メタボリックシンドローム / 脂肪細胞 / 翻訳後修飾 |
研究概要 |
我々は、脂肪細胞が高血糖状態に曝されると、TCAサイクルの中間体であるフマル酸の細胞内濃度が上昇し、フマル酸が蛋白と反応してS-(2-succinyl)cysteine (2SC)が生成すること、さらに本反応によってアディポネクチンをはじめ様々な細胞内蛋白の機能が低下する新規な翻訳後修飾経路を見いだしており、今回、脂肪細胞において2SC生成が促進するメカニズムを解明し、栄養学的観点から2SC生成を抑制するのに最適な食事の摂取バランスおよび摂食タイミング等を検討することを目的としている。 今年度の研究により、タンデム質量分析装置(LC-MS/MS)による血清中2SCの絶対的定量に必須である13C標識された内部標準用2SCの合成に成功した。血清中2SCの測定は、血清を分子量3000のカットオフフィルターで低分子量画分を得ることで測定が可能となった。そこで、健常及び糖尿病を誘発したラットの血清中2SCを比較したが、顕著な違いは認められなかった。現在、組織中2SC含量の比較を行っている。 脂肪細胞中2SCの測定は、脂肪酸や様々な夾雑物によってイオンサプレッションの現象がおこり、内部標準を含む2SCの測定感度が著しく低下した。対応策として、細胞蛋白0.1 mgを6N塩酸で加水分解後に塩酸を乾固し、陽イオン交換カラムであるStrata-X-Cカラムを用いて夾雑物を低減した結果、2SCのシグナルが検出可能となった。実際、未分化 3T3-L1細胞に比較して、脂肪細胞に分化した細胞では2SC含量が高値を示し、脂肪細胞をフマル酸共存下で培養するとさらに2SC含量が上昇することがLC-MS/MSで確認された。 また、今年度の研究により、抗原の合成法を改良して新たにモノクローナル抗2SC抗体が得られている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度の研究により、13C標識された内部標準用2SCが合成され、LC-MS/MSによる血清中2SCの正確な定量が可能となったことから、生体中2SCの定量については大きく前進したと考えている。また、この定量法により、疾患動物における血清中及び組織中2SC量の比較測定も進行中である。脂肪細胞中2SCの測定は、中性脂肪含量が高いことが影響してか血清中2SC測定法と異なり、測定法の確立に時間を要した。現在、陽イオン交換カラムを用いた前処理法によって脂肪細胞中2SCの測定が可能となったが、細胞中2SC含量を増加させる因子はフマル酸しか確認されていない。 また、フマル酸と還元処理したウシ血清アルブミン(BSA)を保温して、2SCが生成したウシ血清アルブミン(以下2SC-BSA)の調製に成功した。本2SC-BSAを抗原として新たにモノクローナル抗体が得られた。本抗体はウェスタンブロッティングにも利用可能であることが確認されており、次年度、予定通り血清中2SCの測定系確立に用いる予定である。 「フマル酸生成増加に関与する遺伝子の発現変動」については、LC-MS/MSによる2SC測定系をより安定したものにした上で、代謝に関連する酵素の活性、発現レベルを測定する予定であるため遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
2SC定量に用いる13C-2SCの合成に成功したことから、生体試料中2SCの定量が可能となった。また、2013年度の研究結果より、ヒト血清に比較してマウス及びラットの血清中2SCは低値を示すことが明らかとなった。当初の予定ではラットに各種有機酸やアミノ酸含量の異なる飼料を摂取して生体2SCの変動を評価する予定だったが、今年度は如何なる食習慣で2SC値が増減するかを、ヒトを中心に評価することを計画している。具体的には、熊本大学医学部代謝内科及び、福岡大学医学部病理学教室と共同研究契約を結び、様々な生活習慣病患者の血清中2SC値を測定し、病態との関与を評価することを計画している。すでに両大学における倫理委員会の承認がおり、現在、血清及び動脈等の組織検体が集められている。 また、平成25年度に新たに得られたモノクローナル抗2SC抗体を用いて、血清中2SCの測定系を確立し、LC-MS/MS分析値との相関性を確認する。 具体的には、フマル酸と保温して2SCが生成したウシ血清アルブミン(2SC-BSA)をイムノプレートに固相化した後、ヒト血清サンプルと抗2SC抗体を同時に添加する。もし血清中に2SCが多ければ最終段階の発色が抑制される「競合ELISA」の原理を用いて、血清中2SCを免疫学的に定量する。96穴イムノプレートを用い、血清1検体に付2穴で測定することにより、イムノプレート1枚でおよそ45検体の血中2SC値が測定できる系を確立する。そして、LC-MS/MS分析値との相関性を評価し、高い相関性の得られる実験条件を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
H25年度の実験計画で「フマル酸生成増加に関与する遺伝子の発現変動」について進める予定であったが、LC-MS/MSによる2SC測定系をより安定したものにした上で、着手することが最善と考え、来年度に着手することとしたため若干遅れが生じている。 当初予定していた「フマル酸生成増加に関与する遺伝子の発現変動」を検討する実験を来年度にすることとし、代謝に関連する酵素の活性、発現レベルを測定する試薬・器具を購入予定である。 また、次年度よりヒト介入試験に着手予定であり、LC-MS/MSによる血液中2SC測定のサンプル処理用カラム・フィルター・及び試薬等の購入を行う。 さらに血液中2SC化蛋白の迅速な検出法の確立のため、抗原抗体反応を用いた方法を予定しておりこの研究に用いる試薬・器具等の購入を行う。
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