研究課題/領域番号 |
24300267
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
大谷 実 金沢大学, 学校教育系, 教授 (50241758)
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研究分担者 |
布川 和彦 上越教育大学, 学校教育研究科(研究院), 教授 (60242468)
日野 圭子 宇都宮大学, 教育学部, 教授 (70272143)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 算数・数学教育 / 教授・学習軌道 / 一次関数 / 数学的対象 / 教室談話 / ICT環境 |
研究実績の概要 |
本研究は、小学校から中学への移行期における児童・生徒の「学習・教授軌道」(略称TAL)を、大学研究者と小中学校教師との協働による縦断的研究を通して実証的に明らかにし、その成果を踏まえて算数と数学の接続性を高める学習指導と評価の指針を提言することである。本年度は、中学校2年の一次関数の単元に焦点を当て、(1)教材分析、(2)生徒の思考、(3)学習環境等を配慮しつつ、仮説的な学習・教授軌道の構成を試み、それに基づき教授実験を実施し、データ収集を行なった。(1)に関しては、教科書分析から現行の教科書の記述が生徒にとって一次関数を数学的対象として構成しにくくなっていることを指摘し、その改善案を提示した。(2)に関しては、生徒は一次関数を思考の対象とするために関数とその表現手段を区別するために、関数を「忍者」に喩え、表現手段を「忍者の影」とみなすことを提案した。(3)に関しては、授業の談話において関数自体について語ることを奨励するような教室談話をデザインし、さらに、関数と表現手段を区別することを奨励するようなGeoGebraアプレットを作成し、タブレットPCを操作しながら学ぶICT環境を構築した。これらの成果をもとに、教授単元を開発し、公立中学校の少人数習熟度別の基礎クラスにおいて教授実験を実施した。単元の授業のすべてについて、ビデオレコータを複数台使用し、授業全体と4名の個人の学習過程の映像と音声記録、生徒のワークシート等を収集した。授業データを研究分担者と共同で、一次的分析を行い、開発した教授単元と学習環境のもとで、生徒が一次関数とその表現手段を区別し、関数それ自体を語る様子が確認され、一次関数を思考の対象とするための教師の支援と学習環境の有効性の一端が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
関数と表現手段を区別することを奨励するために、GeoGebraアプレットを用いたICT環境を構築するために多くの試行錯誤を要し、時間を必要とした。さらに、一次関数の単元のすべてにわたり、教室全体のデータのみならず、4名の個人の学習過程を超小型ビデオカメラで記録したため、データが膨大となった。個人の学習過程に関して新しい手法で得られたデータを処理するノウハウの開発に必要以上の時間を要した。これら2点の要因により、授業全体のデータ分析を研究分担者と共有し、一次的分析に取り掛かったものの、全体を総合するような分析にまで進めることができなかった。他方で、本年度の研究の着想を国際学会で発表するために、教授単元のデザインを中心に論文を作成することに集中することとし、詳しいデータ分析は翌年に行なうこととした。
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今後の研究の推進方策 |
生徒が関数を数学的対象としてとらえるための教室談話やICT環境について重要な知見が得られたので、先ず、その知見を国際学会等で発表する。その後、個人の学習過程についての超小型カメラによるデータ分析を十分時間をかけて行い、生徒が関数を数学的対象として認識し始める様子を解明する。これまでの3年間実施してきた長期的なデータを総合し、小学校と中学校に亘る関数領域における教授・学習軌道を提案する。
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次年度使用額が生じた理由 |
関数と表現手段を区別することを奨励するためにGeoGebraアプレットを用いたICT環境を構築するために多くの試行錯誤を要し、時間を必要とした。さらに、一次関数の単元のすべてにわたり、教室全体のデータのみならず、4名の個人の学習過程を超小型ビデオカメラで記録したため、データーが膨大となった。個人の学習過程に関して新しい手法で得られたデータを処理するノウハウの開発に必要以上の時間を要した。加えて、研究代表者の母親が脳出血で要介護5となるも介護施設に空きがなく介護のために、データ分析の時間がなくなった。そのため、詳しいデータ分析は翌年に行なうこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究は平成26年度が最終年度であったが、上記の理由により翌年度に繰り越すことを認めていただいた。平成27年度は、収集したデータ分析を完成するとともに、これまでの研究を総括して、関数領域における小中の移行期における教授・学習軌道を明確にする。また、得られた成果を国内・国際学会で発表し、成果と普及をはかる。
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