研究概要 |
本研究の目的は,これまでに研究代表者らが開発してきた微生物機能により固化する保存材料の高度化を行い,自己修復機能を持つ環境保全型のカルシウム系保存材料を新たに開発することである。初年度である平成24年度は,カルシウム系保存材料の中でも特にリン酸カルシウム化合物を対象とした研究を実施した。具体的には,平成24年度の前半ではリン酸カルシウム化合物のみを使用した保存材料の開発を行い,その後半ではリン酸カルシウム化合物と微生物を組み合わせた保存材料の開発を行った。得られた主な成果の概要は,以下に示すとおりである。 (1)保存材料の室内析出・固化試験 リン酸カルシウム化合物のみによる保存材料,あるいは,リン酸カルシウム化合物と微生物を組み合わせた保存材料を新たに開発するため,それらの配合が異なる室内析出・固化試験を試験管内において実施した。なお,試験時に注目したリン酸カルシウム化合物の特徴は,その溶解度のpH依存性と自己硬化性である。その結果,pHの値が中性から弱アルカリ性の領域においてリン酸カルシウム化合物の析出・固化が顕著になること,また,ゲル化した白色のリン酸カルシウム化合物は時間の経過に伴って結晶化が進むこと,などが明らかとなった。 (2)保存材料を用いた供試体の作製 上記(1)の結果を踏まえ,対象とした砂質土の土粒子間にある間隙中にリン酸カルシウム化合物を析出・固化させることによって保存材料を使用した供試体を作製した。また,作製した供試体において析出・固化した保存材料であるリン酸カルシウム化合物の結晶の形態および分布状況などを微視的に検討するため,平成24年度に導入した低真空対応可能な卓上型電子顕微鏡(SEM)による観察を実施した。その結果,供試体内部の間隙中にウィスカー状のリン酸カルシウム化合物の結晶を確認することができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度である平成24年度の研究の目的,実施計画,経費などの策定が適切であったこと,また,期待された研究成果がおおむね順調に得られたこと,さらに,研究代表者および研究分担者に健康上の問題が発生しなかったことなどが,主な理由として考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
当初計画のとおり,平成25年度は平成24年度において実施した2つの研究項目の深化を図ると同時に,新たに(1)保存材料を用いた供試体の力学・水理学特性の評価,(2)既存の代表的な保存材料に対する性能評価,について研究を進める。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の研究経費を節約することにより繰り越すことになった学術研究助成基金助成金は,平成25年度の研究費と合わせて有効に活用することを計画している。具体的には,試験のケース数や供試体の本数を増やす,あるいは,研究成果の発表回数を増やす,などを予定している。
|