研究課題/領域番号 |
24300301
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
小田 寛貴 名古屋大学, 年代測定総合研究センター, 助教 (30293690)
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研究分担者 |
池田 和臣 中央大学, 文学部, 教授 (80114007)
坂本 昭二 龍谷大学, 古典籍デジタルアーカイブ研究センター, 研究員 (60600476)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 年代測定 / 顕微鏡観察 / 古筆切 |
研究実績の概要 |
放射性炭素年代測定により古筆切の書写年代を求めその史料的価値を確定し,さらに,顕微鏡観察によって原料・繊維幅・紙漉法等を求め,それらが等しいツレを蒐集することで,失われた古写本の一部分を復元できる.本研究の目的はその方法を確立するところにある. 本年度は第一に,鎌倉時代以前の稀少古写本の断簡である可能性がある潜在的史料価値をもつ古筆切について年代測定を実施した.不明古記録切は放射性炭素年代によって11世紀半ばから12世紀半ばに限定され,国文学的な考察を加えることによって,1011~1012年もしくは1016年の散佚古記録の断簡であることが判明した.伝藤原俊成筆加賀切は,11世紀半ばから12世紀半ばの放射性炭素年代を示し,俊成筆の古筆切であることを裏付ける結果を得た.俊成筆とされる古筆切の内,これまでに顕広切は俊成筆ではなく14世紀のものであることが放射性炭素年代から明らかにされており,御家切も後世のものである可能性が示されている.自然科学的に俊成筆とできるのは,了佐切とこの加賀切である.また,伝藤原行成筆未詳ちらし歌切は10世紀末から11世紀初頭にかかる稀少な古筆切であることも判明した.一方で,平安・鎌倉のものとされていたが後世のものであることが判明した資料もあり,古筆切の持っていた潜在的な史料価値が放射性炭素年代測定によって明白にされた. また第二には,顕微鏡観察によるツレの判定法を実施した.古筆切は,写本や巻物が切断されたものであるため,元々は同一の写本・巻物であったものが存在する.これをツレという.ツレか否かの判定は,これまで書誌学的な視点のみからされていたが,本研究では顕微鏡による観察で同一の料紙であるか否かの判定を行った.例としては,二枚の嘉禄版大般若経とされる古筆切が挙げられる.顕微鏡観察を行い,原料・不純物の種類・表面の加工法等が両者で一致する結果を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度までの実施計画は,代表的な古筆切についての放射性炭素年代測定,顕微鏡観察および元素分析の実施,および,鎌倉時代以前の稀少古写本の断簡である可能性がある潜在的史料価値をもつ古筆切についての同分析の開始である.これらは何れも問題なく推進されている.特に年代の判明している古筆切・古写経切・古文書等の放射性炭素年代は,較正曲線IntCal13との差異が小さく,和紙が放射性炭素年代測定に適した試料であることを明確に示す結果が得られている.この結果はH24,H25の両年度の間に達成すべき成果である.また,伝藤原佐理筆草仮名未詳歌切・『源氏人々心くらべ』断簡・不明古記録切・伝藤原俊成筆加賀切・伝藤原行成筆未詳ちらし歌切などの,潜在的価値を有する古筆切の放射性炭素年代測定,顕微鏡観察もH25年度より開始されているため,本研究は順調に進展しているものといえる.また,古筆切の放射性炭素年代測定・顕微鏡観察・書誌学的な考察を駆使した間接的「非破壊」放射性炭素年代測定法も実施した.学会・論文で発表した本研究の成果は,新聞でも報道されており,本研究が,大学等の研究者だけではなく,一般の国民にも広く興味を持たれていることが示すものである.以上を考慮し,自己点検評価の区分を(1)とした.
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今後の研究の推進方策 |
H27年度は,本年度開始した潜在的史料価値を有する古筆切の放射性炭素年代測定・顕微鏡観察を継続して行う.また,その上で,古筆切の年代測定・顕微鏡観察・書誌学的な考察を駆使することで,間接的な「非破壊」放射性炭素年代測定法が可能であることの実証を行う. 現在,鎌倉時代以前の古写本は希少である.それは,室町時代以降茶道が流行し,古い筆跡をもった古写本が,茶室で鑑賞する掛軸とすべく,各頁,時には数行ごとに裁断されたためである.この断簡が古筆切である.故に古筆切は,高い史料的な価値を有するはずである.しかし,掛軸の材料とされたこと,さらに江戸時代以降は古筆切の蒐集が流行したことから,江戸時代以降に作製された偽物が多く混在している.また,悪意はなくとも古写本断簡を手本とした写しも多くある.まずは,それらの放射性炭素年代測定と書跡史学的見解から年代を求める.さらに,元は同じ本を構成していたと思われる古筆切(ツレ)を収集し,顕微鏡観察・元素分析を行うことによって,自然科学的な面から,真にツレであるかを判定する.これは,散逸してしまった古写本の一部分が復元されることに他ならない.また,復元された散逸古写本を史料として,鎌倉以前の古写本が少ないが故に困難であった歴史学・古典文学等の研究課題の解明を行う.その成果を発表し,本手法により,潜在的でしかなかった古筆切の史料的価値が明確にされ,実質的な新資料の発見となることを提示する.また,書写年代・顕微鏡情報・元素組成を確定した古筆切のツレと思われるものが新たに発見された際,顕微鏡観察で真にツレであることが確認されれば,その書写年代も判明することになる.すなわち,顕微鏡観察という非破壊分析によって,間接的な年代測定が可能となる.この「非破壊放射性炭素年代測定」についても提示する.得られた成果により,国内外での学会発表・論文投稿を積極的に行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
H26年度末に役務提供を計画していたが,年度末の繁忙期であったため,また金額不足のため,より低金額の閑散期であるH27年度前半期へ変更した.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額分は,H27年度前半に上記の役務提供に使用する.なお,この役務提供額が不足する場合は,H27年度分として請求した研究費にて補充する.そのため,この不足分補充額を引いたH27年度の研究費は,おおむね当初の計画通りに使用する.
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