研究概要 |
博物館などに保管されているタイプ標本は生物の学名の基礎となっているものであり極めて重要な価値を持つ。しかし,近年ではDNA情報が分類学的研究に重要な要素となっており,古いタイプ標本からのDNA情報の収集が困難であることが研究の足かせになっている。本研究ではきのこ類および地衣類のタイプ標本採集地から該当分類群を採集し,DNA情報を伴ったエピタイプ標本を指定することによって,近代分類学における問題解決および博物館等に保管されているタイプ標本のさらなる価値向上を目指すものである。 平成24年度は次の研究を実施した。 (1)過去の標本のDNA断片化評価。エピタイプを指定するためには,ホロタイプやレクトタイプなどのタイプ標本が不完全なものであることを明示することが望ましい。そこでタイプ標本と同年代に採集された標本のDNAがどの程度分断化しているのかについてバイオアナライザーを用いた評価法を開発し検討を行った。その結果,きのこ類および地衣類で2000年以前の標本でDNAの分断化が極端に進行しており,通常のDNA分析法では塩基配列の決定が不可能であることが分かった。次年度以降は,断片DNAの回収および塩基配列の復元が可能かについて検討する予定である。 (2)タイプ標本採集地からの該当分類群の採集。平成24年度は,北海道,長野県,山梨県,静岡県,滋賀県,広島県,小笠原諸島,南西諸島(沖縄島,石垣島)などを調査し,きのこ類約250点,地衣類約300点の標本を得た。 それらのうちタイプロカリティーから採取され,タイプ標本と形態的・化学的に同等であった標本の種数は,きのこ類で7種(12点),地衣類で16種(35点)であった。これらの標本はトポタイプとし扱い,将来的にエピタイプ指定をする際の候補標本として位置づけている。
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