研究課題/領域番号 |
24300314
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研究機関 | 独立行政法人国立科学博物館 |
研究代表者 |
大村 嘉人 独立行政法人国立科学博物館, 植物研究部, 研究主幹 (40414362)
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研究分担者 |
保坂 健太郎 独立行政法人国立科学博物館, 植物研究部, 研究員 (10509417)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 分類学 / タイプ標本 / 系統 / キノコ / 地衣類 |
研究概要 |
博物館などに保管されているタイプ標本は生物の学名の基礎となっているものであり極めて重要な価値を持つ。しかし,近年ではDNA情報が分類学的研究に重要な要素となっており,古いタイプ標本からのDNA情報の収集が困難であることが研究の足かせになっている。本研究ではきのこ類および地衣類のタイプ標本採集地から該当分類群を採集し,DNA情報を伴ったエピタイプ標本を指定することによって,近代分類学における問題解決および博物館等に保管されているタイプ標本のさらなる価値向上を目指すものである。 平成25年度は次の研究を実施した。 ①過去の標本のDNA断片化評価。バイオアナライザーを用いてDNAの断片化を評価した。きのこ類ではホロタイプから1点を選択し、特異的プライマーを作成したうえで、菌類のDNAバーコード領域である核ITS領域全域の塩基配列を復元することに成功した。地衣類では,ウメノキゴケを構成する菌類と藻類のそれぞれに着目し,経年ごとのDNA分断化を詳細に調べるとともに,断片化した塩基配列情報の回収を試みた。地衣類標本のゲノムDNAは10年経過で約500bp、15年で約200bp以下に断片化していた。10年経過後の標本についてITS領域のPCRを行ったところ共生菌で約250bp、共生藻で約450bpのPCR産物が回収されたことから、共生菌の方が共生藻よりもDNAの断片化が速く進んでいることが考えられた。 ②タイプ標本採集地からの該当分類群の採集。平成25年度は,日本各地から、きのこ類約300点、地衣類約150点の標本を得た。そのうち、小笠原諸島で採集したきのこ類5点については、タイプ以来採集がなかった種と考えられることから、将来的にエピタイプ指定をする際の候補標本として位置づけている。地衣類については,エピタイプ候補を含めた論文を投稿中である。それらの標本についてDNA情報の公開も予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国立科学博物館では、日本から記載されたきのこ類のタイプ標本が440点、地衣類では523点を保管している。多くのタイプ標本採集地が採集当時の環境と比べて著しく破壊が進んでいることや記載分類群に分類学的に難解なものが含まれていることを考慮すると本プロジェクト期間内にそれぞれ100分類群程度エピタイプ指定ができれば、プロジェクトは成功であると考えており,計画的にエピタイプ候補種の採集も進んでいる。一方,エピタイプ指定時に示すべきホロタイプまたはレクトタイプ中のDNA分断化状況の調査についても計画的に進んでいる。 また,我々の取り組みについては国際的にも注目されており,2014年8月にはタイで開催される国際菌学会(IMC10)で招待講演を行う予定である。 以上より,本プロジェクトの進行状況および国際的評価の点でおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
日本国内のタイプ標本採集地をまわりタイプ標本同等品の収集に努め、可能な標本からエピタイプ指定を行っていく。タイプ標本または同年代の採集品のDNA状態については国立科学博物館保管標本だけでなく、海外の標本庫の標本についても比較できるよう研究機関間のネットワーク構築に努める。
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次年度の研究費の使用計画 |
プロジェクトを進めていく上で難解な分類群を効率よく検討するために海外研究者の招へいが必要だと感じ,その費用の確保を考えていた。当該年度は購入を予定していた試薬が他予算で購入できたため,その分が次年度使用額として生じた。 本研究担当者による日本各地での標本採集に加えて,海外研究者の招へいも積極的に行い,難解な分類群もより正確に同定できるような体制を取って研究を進める。従って,予算使用は,調査・採集,標本の形態・化学・遺伝子解析,そして海外研究者招へいおよび国際ネットワーク強化を基本とする。
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