研究課題
博物館などに保管されているタイプ標本は生物の学名の基礎となっているものであり極めて重要な価値を持つ。しかし,近年ではDNA情報が分類学的研究に重要な要素となっており,古いタイプ標本からのDNA情報の収集が困難であることが研究の足かせになっている。本研究ではきのこ類及び地衣類のタイプ標本採集地から該当分類群を採集し,DNA情報を伴ったエピタイプ標本を指定することによって,近代分類学における問題解決及び博物館等に保管されているタイプ標本のさらなる価値向上を目指すものである。平成27年度は次の研究を実施した。①タイプ標本採集地からの該当分類群の採集栃木県、埼玉県、富山県、長野県、鳥取県,福岡県、小笠原諸島などを調査し,きのこ類約300点,地衣類約200点の標本を得た。そのうち,きのこ類については、鳥取から2種5標本、日光から1種1標本、小笠原諸島から6種10標本のエピタイプ候補標本をタイプロカリティーから得ることができた。同様に、地衣類については、埼玉県武甲山から2種3標本のエピタイプ候補標本を得ることができた。②国立科学博物館所蔵日本産きのこ類・地衣類タイプ標本に該当する現行種のDNA解析きのこ類タイプ標本は、チャダイゴケ属を中心に、タイプ標本(約30点)からのDNA抽出および顕微鏡観察を行った。DNAは断片化が進んでおり、ITS領域全域の配列を得ることはできなかったが、5点の標本からはITS領域の部分配列を得ることができた。地衣類については,日本産地衣類タイプ標本490点は、現在までの分類学的先行研究の結果383分類群にまで整理されており、本研究においてはこれまでに延べ現行種186分類群の標本を得ることができている。DNAが得られた標本については,ITSrDNA, mtSSU, nrLSU, RPB1といった菌類で主要な遺伝子領域を順次解析した。
2: おおむね順調に進展している
国立科学博物館では、日本から記載されたきのこ類のタイプ標本が562分類群(680標本)、地衣類では490分類群(523点)を保管している。多くのタイプ標本採集地が採集当時の環境と比べて著しく破壊が進んでいることや記載分類群に分類学的に難解なものが含まれていることを考慮すると本プロジェクトの期間内にそれぞれ100分類群程度エピタイプ指定ができれば、プロジェクトは成功であると考えており、計画的にエピタイプ候補種の採集も進んでいる。一方、エピタイプ指定時に示すべきホロタイプまたはレクトタイプ中のDNA分断化状況の調査についても計画的に進んでいる。さらに、本プロジェクトにおける現地調査および標本庫に保管されている標本調査の実施に伴い、絶滅危惧種や希少種の現状確認や日本新産種および新種などの発見もなされており、科学的に大きな成果も得られている。以上より、本プロジェクトの進行状況の点でおおむね順調に進展していると考えられる。
平成28年度はプロジェクト最終年度であるために、未調査地域の調査およびエピタイプ選定作業を進めるとともに、研究成果の社会発信に努める。研究発表としては本プロジェクト期間でこれまでに雑誌論文49本(おもに国際学術雑誌)および学会発表47回と多数の成果を報告してきた。最終年度も同様に学術論文および学会発表による発信を行い、本プロジェクト終了時には一般社会にも成果を還元できるようホームページによる発信も行う予定である。
プロジェクトを進めていく上で難解な分類群を効率よく検討するために国際共同研究の必要性を感じ、海外から研究者招へいを予定していた。しかし、本人が急病になったため来日を断念し、その分の予算が次年度へ繰り越された。また、プロジェクトを補佐するための非常勤職員が都合により年度途中で退職され、代替者を補充できなかった分も次年度へと繰り越された。
本研究担当者による国内および関連する周辺諸国での調査に加えて、海外研究者の招へいも積極的に行い、難解な分類群もより正確に同定できるような体制を取って研究を進める。従って、予算使用は、調査・採集、標本の形態・化学・遺伝子解析、そして海外研究者招へい、および国際ネットワーク強化を基本とし、ならびにプロジェクト補助の人件費とする。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (12件) (うち国際共著 8件、 査読あり 9件、 謝辞記載あり 6件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件)
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