研究課題/領域番号 |
24300320
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
高橋 日出男 首都大学東京, 都市環境科学研究科, 教授 (40202155)
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研究分担者 |
三上 岳彦 帝京大学, 文学部, 教授 (10114662)
境田 清隆 東北大学, 環境科学研究科, 教授 (10133927)
澤田 康徳 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (60510667)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 短時間強雨 / 予測 / 降水特性 / 風系 / 都市型水害 / 関東地方 / 東京 / 防災 |
研究実績の概要 |
①ディスドロメータによる1分ないし30秒間隔の雨滴粒径観測を東京都の都心・郊外5地点と仙台市1地点で継続して行った。200mm/hの降水強度が10分間ほど継続した仙台市の局地的な雷雨事例など,いくつかの短時間強雨事例が捉えられた。予察的な解析から,降水強度と降水粒子数との相関性や降水粒径の時間変化などが捉えられた。 ②33年間の一般風が弱い夏季日中を対象とした関東地方の風系分布等の解析を行い,南寄り海風が卓越して風速が大きく,東寄り海風が侵入しない類型が近年増加傾向にあり,海風前線の侵入や広域海風への移行はむしろ早まる傾向が認められた。一方,風速の大きくない南寄り海風の出現頻度は減少しており,関東平野中央部で南寄り海風と東寄り海風が収束する類型や東寄り海風が卓越する類型には経年変化が認められなかった。 ③首都圏を中心とする強雨発現特性解明の一環として以下の解析を行った。強雨域の発現特性として,5年間の8月を対象に関東地方で発現した降水強度30mm/h以上の強雨域の空間スケール,ピーク強度,ピークに対する集中度に関する地域性と日変化特性を気象庁合成レーダーデータを用いて解析した。東京都区部北部から埼玉県南東部は関東平野の中でも降水の集中度が高く空間スケールの小さい強雨域が近接して発生している地域とみなされた。関東地方におけるアメダス観測点の時別・日別降水量を用いて夏季総降水量に対する降水階級別の寄与を調べた。関東地方北部や西部の山地および南関東では日降水量で,関東地方北部から西部の山麓域や都心付近では時間降水量で,大きい降水量階級の総降水量に対する寄与が大きい。また,多摩西部における夏季降水頻度の経年的変化を江戸時代末期から明治時代の古日記から復元したところ数十年周期の変動が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ディスドロメータによる1分ないし30秒間隔の雨滴粒径や雨滴密度(数),降水強度等の観測を継続的に行い,停電による欠測や時刻の復元が必要になる期間が発生したものの,観測データの蓄積や予察的解析を進めている。関東平野の風系分布の経年変化については,総観場(気圧配置)の経年的変化と関連して,近年では南寄り海風の風速強化と海風前線の速やかな内陸への進行が指摘され,一方で東京都区部やその北側に収束帯を形成する場合については経年的な増減が認められないなど,都心付近の雷雨性短時間強雨を風系の観点から考察するうえで重要な成果が得られた。また,短時間強雨の統計的予測モデルに必要な大気安定度や地上風収束量の閾値再設定には至らなかったものの,強雨の発現特性としてレーダーデータやアメダスデータ等の解析から,最終年度の予測モデル構築に向けて興味深いいくつかの成果が得られた。以上の点から本研究はおおむね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
本年度後半には,今回設置したいずれの観測点についても2~4回の夏季を含む複数年の観測データが蓄積される。気候学的な特徴をより明確にするためには今後も観測を継続してデータを得る必要があるが,最終年度にあたり夏季を中心として地域(東京と仙台)や都内の場所(都心域と郊外域)による雨滴粒径ヒストグラムや雨滴密度の差異などの基礎的な解析を進める。また,一定程度の降水があった事例に注目して季節や降水要因による差異を検討する。とりわけ,レーダー画像などによって対流性降水(雷雨)の発生や移動が明確に捉えられる強雨事例に着目し,降水開始から終了までの雨滴粒径ヒストグラムの変化を追跡する。これをその時の気象条件と突き合わせ,降水特性と大気の環境場との関連性を明らかにする。 風系の経年・年々変化については,一応の成果が得られたことから,公表に向けてまとめる。その一方で,短時間強雨発生予測モデルの参考に資するために,レーダーやアメダスデータを用いた強雨特性に関する地域性や日変化特性に関する解析を進展させる。 東京都環境科学研究所との連携により,高時間分解能の大気汚染常時監視測定局(常監局)等の観測データを整理し,強雨域と収束域との空間的対応や,降水量と収束量の時間変化および量的対応などについて,さらに解析・検討を加える。また,気象庁メソ数値予報モデルの予報値を用いた大気安定度(SSI, K-index, CAPEなど)と強雨発生との関係性についても検討を進め,統計的予測モデルに必要ないくつかの閾値の再設定を行い,予測モデルのプロトタイプに改良を加える。 以上の基礎的研究を推進する一方で,これまでの研究成果を論文にまとめるとともに,防災教育・環境教育や施策に寄与できる取り組みも併せて行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
ディスドロメータによる計測データの,停電に伴う時刻の復元に予定以上の労力が必要となり,かつ大気汚染常時監視測定局や気象庁メソ数値予報モデルのデータ解析を一層進展させるために,ポスドク級の実績を有する人材を雇用する必要が生じた。4月当初から雇用するための予算を確保する必要から次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は,本課題研究に協力する特任研究員の雇用経費の一部に充当する。
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