研究概要 |
平成24年度は北アルプスを主対象に,室内・野外両面で調査研究を遂行した. 上高地地区は,主に苅谷・原山・高岡が担当した.苅谷は蝶ヶ岳の重力変形現象を記載し,転倒変形する岩石露頭を複数見いだした.また奥又白沢上部を発生域とする大規模地すべり堆積物を新たに発見し,分布や岩相を記載した.原山は微動アレー地下探査を行い,河童橋で表層20m以浅に大規模地すべり堆積物と目されるS波速度の大きい物質を見いだした.高岡は線状凹地性の池沼(12地点)で底質珪藻を採取し,予備解析に着手した.また植生に対する地すべりの長期的影響を解明するため稜線-谷底間で森林植生を記載し,微小地形と植生に対応関係があることを検出した. 高天原地区・内蔵助平地区は,主に苅谷・原山・松四・齋藤(連携研究者)が担当した.苅谷は両地区の地形学図を作成し,地質記載と年代測定試料の採取を行った.また3名共同調査により宇宙線照射年代試料を初めて両地区で採取し,従来全く知られていなかった新規性のある年代値を得た. 白馬岳地区は,主に佐藤(連携研究者)と苅谷が担当した.両名は八方尾根の線状凹地で地震波探査や土壌試料採取を行い,同地形の形成機構や形成期を検討した. 南アルプス・間の岳地区は,西井が担当した.西井は大規模崩壊地の上部斜面において電気探査を行い,重力変形地形の地下に岩盤の破砕度が異なる複数の領域があることを見いだした. この他,齋藤は日本アルプスでの大規模地すべりの発生を検討する道筋を探るために,2011年台風12号による紀伊半島大規模地すべりの発生と降雨量との関係をGISで解析し,地すべりの発生は雨量の絶対値よりも過去の降雨履歴とよく対応すること見いだした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
野外調査はほぼ計画どおりに達成でき,目標としていた試料採取等もおおむね完了した.この結果,当初予想していなかった地形年代が各地で得られるなど,新規性に富むデータが出揃いつつある.成果の一部は査読論文や学会発表において公表することができた.一方,作業時間の確保が難しかったために,一部地域の空中写真判読が遅れている.
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今後の研究の推進方策 |
研究計画書に記載したとおり,平成25年度は中央アルプスや南アルプスでの野外調査を本格化する.また平成24年度の調査研究により,宇宙線照射年代(10Be)法が山岳地域での地形・地質編年にきわめて有効なことが確認されたので,平成25年度は採取試料数を当初予定よりも増やし,本研究における地形年代学的枠組みを強化する.
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次年度の研究費の使用計画 |
当該助成金の発生理由は,当初予定した航空レーザー測量作業を留保し,国や地方自治体が有する同様のデータの公開状況を見きわめることにしたためである.平成25年度は,自然公園法の制限のためボーリング掘削等が困難な北アルプスにおいて,地下物理探査を実施し,大規模崩壊堆積物の地下埋積状況を確認する予定である.また当初予定していなかった国際地形学会議での成果発表(外国出張)等も行う.
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