研究課題/領域番号 |
24300331
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
井垣 達吏 京都大学, 生命科学研究科, 教授 (00467648)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 癌 / 細胞・組織 / シグナル伝達 / 遺伝学 |
研究概要 |
ショウジョウバエ成虫原基の上皮組織において、apico-basal極性が崩壊した変異細胞は正常細胞に近接すると細胞競合の「loser」となって組織から排除される。このとき、loserとなるべき極性崩壊細胞が占有する「場」(組織全体)においてEiger(ショウジョウバエTNF)遺伝子を遺伝的に欠損させると、極性崩壊細胞はloserとして排除されなくなるだけでなく高い増殖能を獲得してwinnerに転換し、周辺の正常細胞を駆逐しながら組織内を拡大する。本研究ではこれまで、winnerに転換した極性崩壊細胞内のHippo経路制御に着目し、YkiキナーゼであるWartsがEiger-JNKシグナルによって制御されることを見いだしてきた。具体的には、各種Hippo経路因子の変異細胞クローンは細胞競合のwinnerとなって過剰に増殖するが、それらのクローン内でEiger-JNKシグナルを活性化させると増殖能が強く抑制されることを見いだした。さらに、このEiger-JNKシグナルによるwinner細胞の増殖抑制は、JNKによるWartsの活性化により引き起こされていることを強く示唆するデータを得た。 一方、本研究ではloser-winnerスイッチ現象を誘起する「場」を規定する因子の遺伝学的スクリーニングも並行して進めている。本スクリーニングでは、極性崩壊細胞と正常細胞の競合の「場」にランダムな染色体欠失変異を導入し、これにより競合現象が正や負に制御される系統を探索する。これまでに、極性崩壊細胞の排除が抑制される染色体欠失系統(サプレッサー系統)を数系統単離することに成功した。さらに、複数の染色体欠失領域が互いにオーバーラップするサプレッサー(3つの染色体領域)を同定し、これによりそれぞれのサプレッサー責任遺伝子領域を狭めることに成功している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、細胞競合により駆動されるがん制御の微小環境を「競合的がん制御場」と定義し、その形成と活性・性質を司る遺伝的基盤の解明を目指すものである。これまでの本研究により、細胞競合のloserからwinnerに転換した細胞内で変化するシグナル伝達経路の同定、およびloser-winnerスイッチ現象を誘起する「場」を規定する遺伝子候補の単離に至っており、研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究ではこれまでに、極性崩壊細胞内でHippo経路制御因子WartsがEiger-JNKシグナルを介して活性化されることを強く示唆するデータを遺伝学的に得ている。そこで今後は、まずJNKによるWartsの活性制御機構を生化学的手法により明らかにする。さらに、JNKによるWartsの活性制御に影響を及ぼすがん関連シグナルを同定することで、競合的がん制御場の分子基盤の解明を目指す。 一方、本研究において並行して進めているloser-winnerスイッチ現象を誘起する「場」を規定する因子の遺伝学的スクリーニングでは、これまでにすでに複数の候補遺伝子の単離に至っている。そこで今後は、CRISPR/Cas9システムを用いて各候補遺伝子の機能欠失変異体を作出し、責任遺伝子の同定を試みる。同定された責任遺伝子の機能と細胞競合における役割を解析することで、loser-winnerスイッチ現象を誘起する「場」を規定する分子基盤の解明を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究を遂行するために研究員1名を雇用していたが、当人が2012年9月に本人都合により離職し、期間内に代わりの研究員を見つけることが困難であったことから、主に謝金の使用額が予定よりも大幅に減少することとなった。 研究員1名を雇用、あるいは研究員の適任者を見つけることが困難な場合には技術補佐員1~2名を雇用し、本研究を強力に推進する。さらに残額がある場合には、消耗品費に充てる。
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