研究課題
① CTLとTh細胞を共に誘導する癌抗原ペプチドの同定(西村)肺癌、食道癌および膀胱癌などに高頻度で高発現する、新規癌精巣抗原CDCA1を対象とした。日本人で頻度が高いHLAクラスII分子に結合するCDCA1ペプチドのうち、HLA-A2あるいはA24により提示され癌細胞を傷害するCTLを誘導できるshort peptide(SP)を内包し、かつTh1細胞を誘導できる比較的長いlong peptide (LP)を数種類同定した。これらのLPの中にはTh1細胞のみならず、樹状細胞による交差抗原提示によりCTLを活性化できるものがあり、CDCA1を含む3種類の癌抗原SP免疫療法を受けた癌患者で、免疫療法後にCDCA1 LP特異的Th細胞の有意な増加が観察された。②ヒトiPS細胞から分化誘導した樹状細胞を利用した癌免疫療法の開発ヒトiPS細胞から分化誘導したミエロイド系血液細胞に、細胞増殖因子(cMYC + BMI1等)をコードする遺伝子を発現させ、増殖特性の優れたミエロイド細胞(iPS-ML)を作成できた。iPS-MLはGM-CSFとIL-4と共に培養すると樹状細胞(iPS-ML-DC)に分化し、さらにiPS-ML-DCが発現するHLAクラスI分子に結合することが知られている抗原ペプチドを負荷することにより、in vitroで当該癌抗原特異的ヒトCD8+T細胞への抗原提示ならびに感作が可能であった。さらに TAP遺伝子を標的破壊したヒトiPS細胞由来のiPS-ML-DCは、内因性HLAの発現が激減し、アロHLAクラスI特異的T細胞による拒絶を回避できた。このTAP欠損iPS-ML-DCに、アロHLAクラスI 遺伝子を強制発現させた細胞は、当該アロHLA拘束性T細胞による、癌抗原ペプチド特異的な免疫応答を誘導できた。
2: おおむね順調に進展している
CDCA1は、多様な癌組織と胎生期の組織を含む24種類の正常臓器を対象とした、ゲノムワイドcDNAマイクロアレイ解析により、新規に同定した癌精巣抗原であり、肺癌、胆管細胞癌および膀胱癌の、ほぼ全例において高発現している。研究は予想以上に順調に遂行されており、肺癌、胆管細胞癌、膀胱癌ほかの多様な癌患者に、CTLのみならずCTLの誘導と記憶を促進するTh1細胞をも活性化できる、免疫療法に応用可能なCDCA1由来のLong peptidesを複数同定できた。また進行口腔癌患者を対象として、医師主導臨床研究として実施された、CDCA1 short peptideを含む3種類の新規癌抗原由来のSP免疫療法の第I/II相試験では、その安全性が確認され、約20%の患者でOverall survivalの延長が観察された。このようなペプチド免疫療法を受けた癌患者において、免疫療法後にCDCA1由来のLPに反応するTh1細胞の増加が観察された点は、非常に興味ある観察である。おそらく癌抗原SPワクチンで誘導されたCTLが癌細胞を破壊し、癌細胞から放出されたCDCA1が樹状細胞により処理され、Th1細胞に抗原提示し、これを感作して活性化したものと想定される。今後、Th1細胞の存在の有無と患者の予後との関連について、解析することは重要な研究課題であると共に、CTLのみならずTh1細胞をも活性化する癌抗原LPワクチン療法の有用性が期待できる。iPS-ML-DCならびにTAP欠損iPS-ML-DCの樹立法の確立も順調に進み、所期の目標を十分に達成できた。今後は、平成25年度に完備されたCPCと付帯設備を利用して、iPS-ML-DCの大量培養を試み、その免疫療法への応用に資する前臨床試験を開始する。
平成25年度までの研究成果として、ヒトiPS細胞から誘導したミエロイド系血液細胞に細胞増殖因子(cMYC + BMI1等)をコードする遺伝子を導入して発現させ増殖性ミエロイド細胞(iPS-ML)を作成することが出来た。さらにiPS-MLにGM-CSFとIL-4を添加して培養すると3日間程でT細胞への抗原提示機能を有する樹状細胞(iPS-ML-DC)が誘導され、アロHLAクラスI反応性CTLから逃避できるTAP欠損iPS-ML-DCについても作成できた。京都大学iPS細胞研究所が平成26年度完成を目指して準備中である「日本人集団において頻度の高いHLAハプロタイプのホモ接合のドナーに由来するiPS細胞ストック」を利用し、これに対応したiPS-MLのストックを作成することにより患者のHLAに適合したアロ iPS-ML-DC療法を開始できる体制を整えることに着手する。さらに、このようにして作成された iPS-ML-DCが、我々がこれまでに同定したCTLやTh1細胞の活性化を誘導する癌抗原ペプチドを当該T細胞に提示し、これらを活性化できるか否か検討する。またiPS-MLおよびiPS-ML由来の樹状細胞を用いた癌免疫療法の実用化を目指して、学内に設置されたCPC (Cell Processing Center)内に、GMP準拠培養による iPS-ML の大量生産システムが概算要求により整備されたので、まずヒトiPS-MLならびにiPS-ML-DCの大量生産が可能か否か検討しこれらの細胞の均一性やT細胞への癌抗原ペプチドの提示機能について検証する。以上の人工的な樹状細胞の大量培養系を簡略化すると共に迅速かつ腫瘍化する危険性が少ない樹状細胞の大量培養を目指してヒトiPS細胞からではなくヒト末梢血中のCD14陽性単球に細胞増殖因子(cMYC + BMI1等)をコードする遺伝子を導入して発現させ、増殖性ミエロイド細胞(CD14-ML)の作成を試みる。このようにして誘導した CD14-MLからの樹状細胞の誘導ならびに、その抗原のプロセッシングならびにT細胞への抗原提示機能について検討する。
平成26年度にヒトiPS-ML細胞を大量培養する必要が生じたため。試薬(細胞分離用試薬、培養用試薬、免疫反応測定試薬)およびプラスチック実験器具、実験用マウス等の購入に使用する。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (4件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件) (うち外国 1件)
OncoImmunology
巻: 14 ページ: e27927
10.4161/onci.27927
International Journal of Cancer
巻: 134 ページ: 352-366
10.1002/ijc.28376
がん分子標的治療
巻: 12 ページ: 65-70
臨床免疫・アレルギー科
巻: 61 ページ: 303-310
巻: 2 ページ: e25801-25803
10.4161/onci.25801
Gene Therapy
巻: 20 ページ: 504-513
10.1038/gt.2012.59
PLOS ONE
巻: 8 ページ: e67567
10.1371/journal.pone.0067567
Human Immunol
巻: 74 ページ: 1400-1408
10.1016/j.humimm.2013.05.017
医学のあゆみ
巻: 244 ページ: 785-793
血液フロンティア
巻: 23 ページ: 1081-1089
http://www.immgenet.jp/