研究課題/領域番号 |
24300340
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
中村 貴史 鳥取大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (70432911)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 癌 / ウイルス療法 / バイオテクノロジー / トランスレーショナルリサーチ / 遺伝子治療 |
研究概要 |
抗癌ウイルス療法は、感染した細胞・組織内で増殖伝播しながらそれらを死滅させるというウイルス本来の性質を癌に利用する方法である。これまでの研究により、癌におけるマイクロRNA(miRNA)の特性を利用して、癌細胞特異的に増殖し破壊するワクシニアウイルスMDVVの開発に成功した。そこで本研究では、現行の治療法に抵抗性を示す癌幹細胞に焦点を当て、その自己再生能や発癌性の制御にmiRNA(let7a)の発現低下が関わっていることに注目し、これを指標にして癌幹細胞を根絶する新しい抗癌ウイルス療法の確立を目指している。 本年度は、癌免疫療法との併用によってMDVVの抗癌効果を増強するため、マウス由来サイトカインGM-CSF、又はIL-12遺伝子を発現するように組込んだMDVV-GMCSF、又はMDVV-IL12を作製した。マウス大腸癌MC38細胞を同系C57BL/6マウスの両側の皮下に移植したマウス担癌モデルにおいて、Mock(生理食塩水)、MDVV、MDVV-GMCSF、又はMDVV-IL12を右側の腫瘍内にのみ投与し、抗癌効果(腫瘍発育抑制効果)を評価した。その結果、MDVV、又はMDVV-IL12を投与した右側の腫瘍増殖抑制効果はMockと比較して有意に見られたが、各ウイルスの間で有意な差はなかった。それに対し、ウイルスを投与しない左側の腫瘍増殖はMDVV-IL12による有意な抑制が見られた。以上より、ウイルスを投与した右側の腫瘍増殖抑制効果は、ウイルス間で差がないため、ウイルス増殖による腫瘍破壊に因るものと考えられた。一方、投与しない左側の腫瘍増殖は、IL12発現ウイルスによって最も有意に抑制されているため、NK細胞を活性化する・Tリンパ球に作用しTh1タイプの免疫反応を誘導し腫瘍に対する細胞性免疫を増強するIL-12に因るものと考え、免疫学的解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、マウス癌細胞を用いた同系移植腫瘍モデルにおいて、癌免疫療法との併用によりMDVVの抗癌効果を増強できるかどうかを検討する計画であり、その研究目的は達成した。一方、ヒト乳癌、又は卵巣癌の細胞株・臨床検体を使った癌幹細胞スフェア培養系を用いて、miRNAの発現レベルがMDVVの抗癌効果を予測するバイオマーカーになり得るかどうかを明らかにする検討はやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、MDVV-IL12の抗腫瘍効果メカニズムを解析するため、同様のモデルにおいて、腫瘍内の各種サイトカインをELISAによって、免疫細胞の腫瘍内侵潤をCD4、CD8、CD11b、CD11cなどに対する抗体を用いた免疫染色によって、癌特異的細胞障害性T細胞の活性を51Cr遊離試験によって測定する。 一方、MDVVの臨床応用を視野に入れ、ウイルス製剤のGMP製造や品質管理に関する基盤技術を構築する。I)細胞の大量培養工程、II)ウイルスの増殖・回収・抽出工程、III)精製工程からなるGMP製造工程の最適条件を検討する。工程I)では、これまで樹立したGMP製造用293細胞、又はウサギ初代腎細胞をA)接着系、又はB)浮遊系で培養し、工程II)では、感染時の細胞密度、ウイルス量、及びウイルス感染細胞の培養時間を検討し、ウイルス感染・増殖の最適条件を決定する。その最適条件下で感染細胞からウイルスを回収し、ヌクレアーゼ処理後、工程III)として、A)ショ糖密度勾配超遠心法、又はB)限外濾過膜を用いたTFF法による精製法を比較検討する。ウイルス回収効率と再現性を確認し、より優れている精製法を決定する。一方、MDVVの品質管理のために、 ウイルスに挿入したmiRNA標的配列のシークエンス解析、ウイルスゲノムの制限酵素切断による解析、外来治療遺伝子の発現解析によって、ウイルスの品質を評価する検定法を確立する。そして、各製造工程におけるmiRNA標的配列の変異、ウイルスゲノムの欠失や外来治療遺伝子の発現、保存条件による品質の安定性を評価する。
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