抗癌ウイルス療法は、感染した細胞・組織内で増殖伝播しながらそれらを死滅させるというウイルス本来の性質を癌に利用する方法である。これまでの研究により、癌におけるマイクロRNA(miRNA)の特性を利用して、癌細胞特異的に増殖し破壊するワクシニアウイルスMDVVの開発に成功した。そこで本研究では、現行の治療法に抵抗性を示す癌幹細胞に焦点を当て、その自己再生能や発癌性の制御にmiRNA(let7a)の発現低下が関わっていることに注目し、これを指標にして癌幹細胞を根絶する新しい抗癌ウイルス療法の確立を目指している。 本年度はMDVVの臨床応用に向けて、ウイルス製剤のGMP製造法と品質管理システムのための基盤技術を構築するため、I)細胞の大量培養工程、II)ウイルスの増殖・回収・抽出工程、III)精製工程からなるGMP製造工程の最適条件を検討した。工程I)では、MDVVを産生するための宿主細胞の決定、工程II)では、感染時の細胞密度、ウイルス量、及びウイルス感染細胞の培養時間、ウイルス感染・増殖の最適条件を決定した。現在、その最適条件下で感染細胞からウイルスを回収し、工程III)として、密度勾配超遠心法、又は限外濾過法の精製工程を比較検討している。一方、MDVVの品質管理のために、ウイルスに挿入したmiRNA標的配列のシークエンス解析、ウイルスゲノムの制限酵素切断による解析、外来治療遺伝子の発現解析によって、ウイルスの品質を評価する検定法を確立した。
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