肺腺癌の治療成績向上には新規標的分子の同定とそれに対する特異的阻害剤の開発が必須である。タンパク質リン酸化酵素(キナーゼ)の多くは細胞の増殖・生存を制御し、特異的な阻害剤の開発も進んでいることから、分子標的として有望である。国立がん研究センター東病院の肺腺癌組織97例の全エクソン解析を行ったところ既知のドライバー遺伝子であるEGFRに加え、すべての症例において何らかのキナーゼ遺伝子に既知及び新規の変異が検出されることが明らかになった。患者個々に異なる遺伝子変異プロファイルに合わせた治療開発をより促進するためには、こうした多様性を反映する細胞実験系が必要である。日本人肺腺癌由来13株を含む26株の細胞株について網羅的ゲノム、エピゲノム、トランスクリプトーム解析を行い、データベース化して公開した。臨床検体のドライバー変異にはBRAF、ERBB2など他がん種で治療標的として特異的阻害剤の臨床開発が進んでいるものが低頻度ながら含まれていた。本研究でも明らかとなったこうした背景をもとに薬物治療が予定される肺がん患者を全国規模でスクリーニングする試みを開始した。肺腺癌のドライバーとなる遺伝子異常には点変異に加え、染色体逆位、転座による遺伝子融合も注目されている。最近明らかになったRET融合遺伝子を発現する肺腺癌細胞株としてLC-2/ad株を明らかにし、RETのキナーゼ活性を阻害するバンデタニブが抗腫瘍効果をもたらすことを前年度までに報告したが、より詳細な作用機序を解析するために一細胞シークエンス技術を利用し、バンデタニブ処理によるLC-2/ad細胞のトランスクリプトーム変化を明らかにした。RET融合遺伝子陽性肺がんに対するバンデタニブの研究者主導臨床試験が進行中であり、本研究で得られた知見を臨床の実地デモ役立てることが期待される。
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