研究課題
本研究は黒潮域に沿って分布する造礁性サンゴ骨格に記録される週単位の高精度履歴を用いて過去100年間の黒潮流量の変化を復元することを目的としている。黒潮流量の観測記録は精々40年間しかなく、また、水温、塩分を指標とした海水の物理量を指標にしたものであった。本研究では、サンゴ骨格から復元される水温(ストロンチウム/カルシウム比)、塩分(酸素同位体比)に加え、新たな指標として栄養塩(窒素同位体比)の時空間変化を復元し、過去100年間の黒潮の挙動を明らかにする。これまで本研究では、黒潮流軸上に位置する高知県竜串サンゴコアの酸素同位体比、窒素同位体比分析、鹿児島県甑島サンゴコアの酸素同位体比、和歌山県串本サンゴコアの酸素同位体比分析をおこなってきた。高知県竜串のサンゴ骨格の窒素同位体比変動からは、過去150年間の黒潮による栄養塩供給履歴を復元した。サンゴ骨格の窒素同位体比は黒潮の流量とともに変動しており、その150年間の記録から黒潮の流量の変動は北太平洋十年規模振動(PDO)とエルニーニョ南方振動(ENSO)によって支配されてきたことが明らかになった。1900年代初頭には西太平洋の水温が上昇するラニーニャ状態のときに黒潮流量は増大しているが、1940年以降にはPDOの振幅が顕著になり、PDOの正のモード、つまり冬のアリューシャン低気圧が強いときに黒潮流量が増大するようになった。1970年代以降ではPDOの正のモードとエルニーニョ状態の両方が黒潮流量を増大させる要因になっていた。鹿児島県甑島サンゴコアの酸素同位体比は東アジア夏季モンスーンの影響を受けて変化しており、その変動がPDOへ伝搬していることを示した。これら二つのサンゴコアの結果はそれぞれ国際誌に論文として投稿中である。また本研究の各サンゴコアの結果を統合することにより、北太平洋の気候変動と大気海洋相互作用の関係を総合的に解釈可能となることが期待される。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究によって新たに開発されたサンゴ骨格を用いた栄養塩指標を用いた過去100年間の黒潮流量の定量的な復元に成功したばかりではなく、他の国際共同プロジェクト協調することにより、他の生物源炭酸塩にも適応できること、他の海域にも応用できることが確かめられるなど、当初の予定を上回る成果が得られた。
本研究は、既に、当初計画の目標を達しているが、本研究で得られた知見と手法を他の海域や他の気候学的課題への応用と波及を視野に展開させさらなる発展を目指す。カリブ海やインド洋などの海域における試料への栄養塩指標の応用を行い、より汎用性の高いな栄養塩指標の確立と高制度化を目指し、熱帯から温帯域における栄養塩循環の包括的な解明を推進する。
本研究を国際共同プロジェクトと協調させることにより、当初予定よりも必要経費を削減することができた。本研究で得られた知見と手法を他の海域からの試料にも適応する。具体的には、新たに、喜界島や薩摩硫黄島など黒潮域内や黒潮域続流域にも対象を広げより包括的な研究成果を目指す。そのためのフィールド調査および実験のために必要な経費のために使用する予定である。
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