研究概要 |
本研究は、三宅島2000年噴火後の土壌生態系を調査対象として、火山ガスの噴出量減少にともない火山ガスで抑えられていた植生回復が一気に進むと考えられるこの数年間に起こる土壌微生物生態系変化の様態を解析し、新生火山灰から始まる土壌形成の初期過程における微生物の役割と植物-微生物間の相互作用を明らかにすることを目的とするものである.平成24年度は,火山ガスの影響を強く受けてきた地点(OY地点)と火山ガスの影響が比較的少なく,標高傾度に沿ってパッチ状の草本から低木林の段階に達する3地点(IG7,IG8,IG9地点)において,植生調査と火山灰堆積物および土壌の試料採取を2回(8月,3月)行った.採取した試料については、化学分析,リボソームRNA遺伝子のメタ解析(微生物群集解析),植物根共生糸状菌の分析,呼吸および窒素固定活性の測定を行った.その結果,OY地点の堆積物では,従属栄養代謝の微生物グループの割合が増加し,糸状菌ではTrichodermaのグループが優占することを観察した.このことは,従属栄養代謝が主体となる通常の土壌微生物群集に近づいていることを示唆する.また,IG7,IG8,IG9地点の堆積物では,植生遷移にともない, β-Proteobacteriaとγ-Proteobacteriaからα-Proteobacteriaにシフトすること,糸状菌では,AscomycotaのグループからBasidiomycotaおよび未同定のグループにシフトすることを見出した.これは地上部の植物遷移に応答した土壌微生物の遷移と推察される.植物根共生糸状菌の解析では,Phialocephala属を含む根部エンドファイトがOY地点で採取した植物根で33%,IG7地点で24%の割合で存在することを観察した.この結果は,荒廃地への植物侵入における微生物の共生的役割を探る手がかりになるものと期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね研究計画通りに、研究を実施した.また,その成果を学会等で発表した.なお,平成24年度の2回目の三宅島調査が平成25年3月になったが,平成25年度の5月までには,計画した採取試料の分析を終了する予定である.
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り,前述の調査地点での植物について,根圏微生物の分離同定を重点的に進めて,植生遷移と微生物群集の関係を解析する.また,堆積物については,硝化,脱窒等の窒素循環に関わる遺伝子の解析を行う.
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