研究概要 |
十分に成熟した成熟林は、生態系として炭素吸収量がゼロに等しく、炭素吸収源としてみなされていない.遷移プロセスや数少ない成熟林での知見を考慮すると,このことが正しい可能性がある一方,近年になって成熟林の炭素吸収量がゼロにはならず吸収が継続するという報告もある.本研究は,成熟林における炭素吸収機能とそのメカニズム解明を目的とする.我々は,成熟林で顕著なギャップ・モザイク構造によって創出されるギャップや若齢林での炭素吸収量が大きいために,成熟林全体の炭素吸収量もゼロにはならないという仮説を立てた.これを検証するために冷温帯域の代表的な成熟林であるブナ林と亜高山帯林を対象として,ギャップ・モザイク構造を含む十分に広い調査地を設置し,(1)林床植生を含む森林構造の把握,(2)光合成量と各呼吸量の計測,(3)土壌炭素蓄積量の計測を行い,成熟林の炭素吸収機能を再評価する. H24年度は,冷温帯の典型定期な成熟林であるブナ林を対象として2つの調査地(カヤノ平ブナ林(長野県)と大白川ブナ林(岐阜県),各1ha)を設置し,それぞれの植生構造の把握とともに炭素循環の主要な経路である土壌呼吸,土壌有機物の蓄積量と質を調べた.土壌呼吸と土壌有機物については,植生のギャップ・モザイク構造との関連性を調べるために,多点で測定した. その結果,土壌呼吸の空間不均一性は非常に大きく,かつ植生特に林冠木の植生構造との関係が見られた.具体的には,林冠の開空度が大きいギャップ区で土壌呼吸は小さく,開空度が小さく林冠が密閉している区では土壌呼吸が大きいことが明らかとなった.土壌有機物の質についても,ギャップ区とそれ以外で異なる傾向が見られた.以上から,極相林の炭素循環を推定するには植生構造に注目して不均一性を把握することが重要であることが示唆された.
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