研究課題/領域番号 |
24310006
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小畑 元 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (90334309)
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研究分担者 |
岡村 慶 高知大学, 教育研究部総合科学系複合領域科学部門, 准教授 (70324697)
丸尾 雅啓 滋賀県立大学, 環境科学部, 准教授 (80275156)
蒲生 俊敬 東京大学, 大気海洋研究所, 教授 (70143550)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 現場型自動分析計 / 海底熱水活動 / 鉄(II) |
研究実績の概要 |
本年度はまず海水中の鉄(II)の現場型分析装置を外洋域の熱水プルーム観測に適用できるようにするため、分析システムのフローセル部を改良した。テフロン製フローセルと光電子増倍管が接する面積を増すことにより、高感度化を実現した。 また、船上分析システムにより外洋域の海水中の鉄(II)の測定を行った。まず、白鳳丸KH-14-3次研究航海において、北太平洋の西経170度線上で観測を行い、表面水中の鉄(II)の挙動とその酸化速度を調べた。これらの結果は深層水中の結果と比較することにより、鉄(II)酸化のメカニズム解明に繋げていく。次に白鳳丸KH-14-6次研究航海では、マリアナトラフの熱水活動域において海水試料を採取した。これらの海水には鉄(II)が多量に含まれており、熱水プルームの影響を強く受けた試料を得たと考えられる。微量金属元素濃度測定用、銅・亜鉛・鉄の有機配位子測定用の試料を保存して研究所に持ち帰った。今後、これらの試料の分析を進めていく。 熱水プルームに含まれる金属元素が硫化物として安定するか、有機配位子と錯生成することにより安定するかという問題を調べるため、疑似ポーラログラフ法により、水中の銅錯体の条件安定度定数を調べた。湖沼試料に銅を添加し、天然の配位子と銅の錯体の安定度定数を調べたところ、硫化物由来の錯体と有機錯体が共存している可能性が高いことが明らかとなった。熱水プルーム中での金属元素の錯生成プロセスを考える上で重要な知見が得られたと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
グローバルな規模での海洋の鉄循環に対して海底熱水活動が与える影響を明らかにするため、本研究では現場型自動分析計を用いた熱水起源微量金属元素の広域調査技術の開発を行ってきた。まずルミノール化学発光による船上分析法を用いて、深層水中の2価の鉄を正確に測定する方法を検討し、海水中の溶存酸素濃度が大きな影響を及ぼすことを明らかにした。検量線の作成に注意することにより、より現場に近い測定値を得ることが出来るようになった。一方、外洋域での観測を行うためには現場型自動分析計の高感度化が必要であることが明らかとなった。このため自動分析計のフローセルの改良を行った。この高感度化した現場型自動分析計による観測結果と船上分析法による結果を比較・検討することにより、調査技術を確立できると考えている。このため、熱水起源鉄を追跡する方法を確立するという本研究の目的に対して計画は概ね順調に進んでいると判断した。 また、熱水プルーム中の微量金属元素の存在状態の時間変化を明らかにするため、金属元素の硫化物錯体と有機錯体の挙動の相違についても研究を行っている。天然水中の硫化物錯体と有機錯体を同時に測定した研究はこれまでほとんど報告されていないため、まず分析法の検討をこれまで行ってきた。カソーディックストリッピングボルタンメトリー法や疑似ポーラログラフ法などを駆使し、水中の硫化物錯体と有機錯体を同時に測定することが可能となりつつある。これらの方法を実際の熱水プルーム試料に適用することにより、微量金属元素の存在状態の時間変化が明らかになると期待される。このため、計画は概ね順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
海水中の鉄(II)の現場型自動分析装置を実際の外洋域の熱水プルーム観測に適用できるようにするため、装置の改良と調整を行う。次年度の新青丸研究航海・白鳳丸研究航海に参加し、この改良した自動分析計を用いて、現場で海水中の鉄(II)の測定を行う。特に沖縄トラフの熱水活動域において現場型分析装置の試験を行うとともに、熱水プルームの調査を実施する予定である。この調査で生じた問題点に対応することにより、最終的な調査技術を確立する。 一方、ルミノール―過酸化水素系化学発光により海水中の鉄(III)を前濃縮なく高感度に測定する方法についても引き続き検討する。特に迅速な分析が可能となる条件を確立していく。さらに、この鉄(III)の分析法を現場型自動分析計に組み込むための基礎実験も継続して行う。 昨年度、マリアナトラフの熱水活動域で得た熱水プルームの影響を強く受けた海水に対して、銅・亜鉛・鉄の有機配位子に関する研究を行う。また、これらの海水中の微量金属元素濃度についても測定を行う。さらに平成27年度は沖縄トラフ熱水活動域でも海水試料を採取し、金属元素の硫化物錯体と有機錯体を同時に調べる。熱水プルームにおける金属の有機錯体と硫化物の挙動を比較する事により、海水からの微量金属元素の除去および保持のメカニズムを解明していく。 これまでに得られた結果をまとめ、さらに平成27年度に新たに得られた試料の分析結果を取りまとめ、学会や学術雑誌などで発表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度、海水中の鉄(II)を測定するため現場型自動分析装置を研究航海において使用したが、2015年2月に被圧部中のフロー系に油漏れが生じていることが明らかとなった。このため、次年度にこの被圧部の油漏れの原因を解明するとともに、改良を行う予定である。この被圧部の修理および新しい部品の購入のために次年度に予算を使用する予定が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
2015年5月に被圧部を分解し、油漏れの原因を突き止める計画である。原因が分かり次第、修理および部品の取り替えを実施する。この修理した現場型自動分析装置を6月から7月にかけて行う新青丸研究航海において使用し、熱水プルームの調査を実施する予定である。この調査で生じた問題点を検討し、最終的な調査技術の確立を行う。
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