研究課題/領域番号 |
24310014
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
山崎 秀夫 近畿大学, 理工学部, 教授 (30140312)
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研究分担者 |
香村 一夫 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (10434383)
森脇 洋 信州大学, 繊維学部, 教授 (30321938)
加田平 賢史 大阪市立環境科学研究所, その他部局等, 研究員 (50342986)
廣瀬 孝太郎 神戸大学, 学内共同利用施設等, 助教 (60596427)
井上 淳 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (90514456)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 福島第一原発 / 放射能汚染 / 堆積物 / 放射性セシウム / 環境動態 / 歴史トレンド / 越境汚染 / 汚染履歴 |
研究実績の概要 |
福島第一原発事故に起因する環境放射能汚染の解明と、環境汚染物質の動態解析を各地で調査した。今年度の研究実績は下記の通りである。 陸域から海洋への放射性セシウムの移行過程を阿武隈川及び信濃川河口堆積物で調査した。洪水が放射性セシウムの輸送過程を支配し、潮流や波浪が堆積物への蓄積に大きく影響していた。森林生態系では、事故から5年が経過して、リターの腐植化の進行と共にリターに保持されていた放射性セシウムが可溶化して溶出し始めた。湖沼環境では事故以来、堰止湖の福島県秋元湖では集水域の森林から放射性セシウムが継続して流入し、湖底に沈積している。集水域がない火口湖の沼沢湖では、事故直後に大気から湖面に沈着した放射性セシウムが生態系に組み込まれて、湖内をリサイクルしていた。宮城県化女沼で魚類への放射性セシウムの移行過程を検討した。ブルーギルやオオクチバスの生態学的半減期は420日であり、淡水魚の100日程度と比べて長い値を示した。この湖沼では、食物連鎖を伴った生態系内での放射性セシウムのリサイクルが起きている。そのために、魚類の放射性セシウム濃度の減衰は想定よりも遅れている。首都圏の放射性セシウムは降雨で東京湾に流入するが、大部分が荒川河口域に沈積し、湾央部までは拡散していない。東京湾に流入する放射性セシウムの大部分は千葉県北部の高濃度汚染地帯を起源としていた。集水域に沈着した放射性セシウムは6.2TBq、2015年までに2.4TBqが東京湾へ流入した。また、皇居外苑底質の定点観測では、事故以来、放射性セシウム濃度は必ずしも減衰していない。このことは、首都圏でも放射性セシウムの再拡散、再沈着が起きていることを示している。 これらの結果と各分担者が実施している環境汚染の動態解析手法の開発、環境汚染物質の新たな分析手法の開発、環境汚染と人間活動の関係を連携させて評価した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
福島第一原発事故による環境放射能汚染の動態解析とその放射性核種の環境動態解析のためのトレーサーとして利用することを目標に研究を進めてきた。当初、われわれはチェルノブイリ事故で経験した環境放射能汚染を参照して研究計画を策定したが、福島原発事故による環境放射能汚染の動態はチェルノブイリ事故の場合とは相違しているケースが多い。チェルノブイリと福島では地理学的環境条件が大きく異なることが、その大きな要因であると考えられる。そのために、研究当初には予想していなかった環境放射能動態の知見が得られている。一例を挙げると、事故から30年が経過した現在でもチェルノブイリ(高濃度汚染を受けたベラルーシやウクライナ)では、放射性セシウムは沈着した森林生態系の枠の中に取り込まれ、同じ場所でリサイクルされている。しかし、福島事故の場合には、東日本の地理的環境がチェルノブイリとは大きく異なるために、事故から5年後の現在既に、森林生態系に取り込まれた放射性セシウムは、可溶性化学種としてリターから溶脱して、森林から里山へと移動し始めている。われわれは群馬県北部山岳地帯の定点観測からそのことを確認した。このような事象は、放射性セシウムに限らず、環境汚染物質の動態を評価する上で、重要な知見だと考える。 以上の観点から、われわれの研究は当初に想定した以上に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度(平成28年度)が本研究の最終年度である。従って、最終年度には今まで以上に代表者と分担研究者との間の情報交換を密にして研究を進める。本研究によって多くのデータが得られているので、それを総括して論文として公表することを最優先に研究を進める。さらに、本研究の成果報告書を作成する予定で準備を進めている。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度助成金は東京湾及び江戸川水系の試料採取のために、潜水作業のできる環境分析業者に業務委託した。委託業務の実施に当たり、台風等の気象変動に伴う計画変更が生じたために、当初の予定から見積額の若干の変更が発生したので、本差額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
本差額はあまり大きな額ではないので、次年度(平成28年度)に予定している試料採取、研究成果報告書作成に使用する予定である。
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