研究概要 |
本研究では,海洋性珪藻が無機炭素を細胞内に取込み効果的に固定する系(無機炭素濃縮機構:CCM)と,その系がCO2濃度,pH,温度,及び鉄などの環境因子へ応答仕組みが,海洋一次生産性変動の重要因子であるという仮説に基づき,1.海洋性珪藻類の無機炭素取込みと蓄積を担う分子機構を同定すること,2.この分子機構を担う遺伝子の環境変動下における発現動態分析,およびこれに基づく一次生産性変動予測動態モデルの構築,を目的としている. 平成25年度における実施項目と成果を以下にあげる.1.無機炭素輸送に関わると考えられるタンパクの機能同定;solute carrier (SLC)タンパク質ファミリーを中心とした候補遺伝子の機能同定をさらに推し進めた.PtSLC4-2に引き続き,PtSLC4-1およびPtSLC4-4がいずれも細胞膜型HCO3-輸送体であることを確認した.また,CO2特異的チャネル候補としてアクアポーリン遺伝子をクローニングし,その機能同定を開始した.また,CO2応答性因子としてピレノイド,及び葉緑体周辺に局在すると予測される新奇機能未知タンパク質を取得した.2.葉緑体内および周辺部に局在する炭酸脱水酵素(CA),C4代謝関連酵素の機能解明;計画通りCAとC4関連因子を2種のモデル珪藻で局在確認をほぼ終了した.また,一部のCAは組換タンパクとして取得し,その活性確認を行った.3.これらタンパク質のCO2(pH)、温度、鉄濃度に対する応答の定量的解析;計画に従いCCM関連因子群のCO2,光,及び鉄に対する転写応答性を確認した.4.環境変動に伴う油脂,炭化水素,クロロフィルの相対比の動態解析;油脂と炭化水素について,非破壊的に定量可能な分光技術の開発に成功しつつある.また,この技術を用いて変動CO2環境下におけるこれら貯蔵物質の変動がモニター可能であることが強く示唆されている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
複数の海洋性珪藻無機炭素輸送体タンパク質の取得と機能確認を順調に行っている.また,CO2応答性因子としてピレノイド構成成分や葉緑体近傍で重要な働きが考えられる新奇タンパク質も複数得ており,海洋光合成分子機構を説明するための新たな重要因子を数多く特定しつつある.また,細胞内で無機炭素流路調節に働く酵素群についても,局在をほぼ確定し終わり,珪藻種間での無機炭素流路調節機構のバリエーションにも言及可能なデータセットがそろいつつある.これらCCM因子の環境応答性についても詳細なデータを得つつあり,モデル化に必要な因子とその遺伝子発現調節のフレームワークが構築され始めていると言ってよいだろう.一次生産のアウトプットである油脂や炭化水素の非破壊定量にも目途がつきつつあり,順調な進捗状況である.なお,これら成果の一部を,2013年度に複数の査読付き国際誌に掲載している.
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通りに遂行する.H26年度は無機炭素輸送体や細胞内炭素流路調節因子の機能決定をほぼ終了するとともに,未知因子の機能を出来るだけ同定することを目指す.これら機能の確定と同時進行で,CCM因子の環境応答を精査することにより,環境変動下におけるCCM分子機構の精密なモデル化を開始する.また,一次生産のアウトプットである油脂や炭化水素の環境応答モデルもここに加味し,総合的な海洋一次生産駆動モデルの構築を開始する予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24~25年度に重要な実験が順調に推移したため,試薬代として計上していた金額に余分が発生した.また,ペプチド抗体および通常抗体の作製は,現時点で予定したよりも少数で済んでいるため,これも余分発生の原因となっている. 研究が順調に進んでいるため,消耗品には予定通りの支出を行うが,研究成果が順調に出ているため,この発表に関わる旅費等に有効に使用する予定である.
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