研究課題
南極昭和基地周辺で採取したアデリーペンギン(Pygoscelis adeliae, Hombron & Jacquinot, 1841)死亡ペンギン個体から摘出した眼の網膜標本を用いて,神経節細胞の様態を解剖学的に精査した。その結果,サイズの異なる大小 2 つの亜集団が存在することが分かった。それらを区別して分布様式を調べた結果,2 つの細胞群は異なる分布様式を示し,小型細胞は網膜の中央部に1カ所水平な帯状の高密度領域が,大型細胞は網膜の側頭部と吻側部の 2 ヵ所に高密度部位が認められた。現在,紫外線の影響が無いか更に調べている。本申請課題の進行中の2年間に,砕氷艦しらせが,連続して昭和基地接岸に失敗するという,想定外の事態が生じたために,研究課題遂行に重大な障害が発生したが,過去に採取したペンギン個体を有効に活用することによって,解剖学的な観点から新たな知見が得られた。詳細は,平成26年3月に実施された水産学会春季年会で予備的に発表した。現在,論文にまとめている。今年度は,第55次南極観測隊夏隊によって得られた,新たなペンギン個体が4月以降に日本に到着する予定である。現地の隊員からの情報によると,ラマン分光測定用,解剖学的調査用の死亡個体を,各々複数採取できたという情報を得ている。これらの試料を用いてラマン分光測定と解剖学的調査を実施する予定にしている。ラマン分光測定の際には,水晶体のクリスタリン,角膜のコラーゲンの主鎖の高次構造に鋭敏なアミドIラマンバンドと,また,これらタンパク質側鎖をとりまく環境に鋭敏な,チロシン残基側鎖のダブレットに特に注目して解析を行う予定にしている。
3: やや遅れている
南極昭和基地周辺の氷が厚かったために,砕氷艦しらせが,平成24年と25年の2年に渡って昭和基地に接岸できないという異常事態が発生した。このため,南極地域観測隊の竿不破基地における研究実施計画が大幅に変更され,本申請課題遂行に必須であるペンギン個体の採取を行うことが2年間不可能になった。幸い,過去の南極地域観測によってすでに採取されていたペンギン個体を利用することができたために,ペンギン眼の解剖学的研究の遂行は行うことができたが,ラマン分光測定を昭和基地いおいて実施することが不可能になった。26年度は,本申請課題の最終年度として,日本に持ち帰った死亡ペンギン個体の試料を用いて,ラマン分光測定を実施し,計画の遅れを可能な限り取り戻すことにしている。
本年は,第55次南極地域観測隊夏隊が,昭和基地周辺で採取したアデリーペンギン死亡個体の眼のラマン分光測定を実施する。ラマン分光測定には,本申請課題の研究費で購入したポータブルラマン測定装置を用いる。ペンギン水晶体のクリスタリンたんぱく質主鎖の構造に対する紫外線の影響を,アミドI,アミドIIIラマンバンドの解析によって実施する。また,過去の研究によって紫外線の影響が指摘されている芳香族アミノ酸,特にトリプトファンへの影響を,ラマン分光測定によって精査することにしている。同様に角膜コラーゲンへの影響も,ラマン分光測定によって調べる予定にしている。一方,網膜への影響は,解剖学的研究とラマン分光法を組み合わせて実施する予定にしている。上記の結果について,まとめて関連する学会で発表し,最終的には学術論文にまとめて公表する予定である。
砕氷艦しらせが,南極昭和基地に2年連続して接岸失敗したために,本申請課題で必須なアデリーペンギンのポータブルラマン装置による現地での観測の実施が不可能になったため。このため,ポータブルラマン装置を用いたラマン分光測定は,平成26年4月以降に,日本に持ち帰った死亡ペンギン個体を用いて実施することに,研究計画を変更した、次年度使用額は,平成26年度に,上記の死亡ペンギン個体を用いて実施するための機器や試薬の購入に用いる予定である。平成26年4月以降に,砕氷艦しらせによって日本に運搬到着する予定の死亡ペンギン個体を用いて,ポータブルラマン装置による測定を実施する。
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